地元の特産品にどんなものがあるか。そして、それらを作っている「人」のことを、一体どのくらい知っているだろう――。

色名が付けられないような、不思議な色合いの染め物がある。これは何という色なんだろう?惹き込まれるように商品パッケージを見ると、そのすべてに茨城県産の食材の名前が付いていることに気付くはずだ。

ヤーコン染め、メロン染め、栗染め、ブルーベリー染め……。そんなものでも染まるんだ!という驚きとともに、それがすべて農家から出る「廃材」で染められていることに衝撃を受ける。

「ずっと茨城に住んでいたのに、自分は何も知らなかったんだなって」

染色クリエイター「futashiba248」の関将史さんは、作品作りの原点をそう振り返る。自分たちの商品に色を加えるのに、地元の農業廃棄物を使う。ある夫婦が、そんなものづくりに至るまでを伺った。

ウィルソン 麻菜
1990年東京都生まれ。製造業や野菜販売の仕事を経て「もっと使う人・食べる人に、作る人のことを知ってほしい」という思いから、主に作り手や物の向こうにいる人に取材・発信している。刺繍と着物、食べること、そしてインドが好き。

ファッション好きの夫婦が出会った染色の世界

futashiba248は、茨城県つくば市を拠点に夫の関将史さんと妻の裕子さんのふたりで活動しているブランド。麻ひもと牛革で作ったアクセサリーや、シルクの靴下、ハンドバッグなどの商品をデザイン・制作している。

「futashiba248の“futa”は、『ふたり』で始めたブランドっていうのと、農業廃棄物を『再び』染色として使っている意味を込めています。“shiba”は柴犬で、“248”はfutashibaを数字にしたものです」

柴犬?と思っていたら、裕子さんがパッケージに載っている茨城県の形を見せてくれた。

「茨城県の形が、犬が遠吠えしているように見えるって話を聞いたんです。ふたりとも柴犬が好きだったし、柴犬のように誠実なブランドづくりをしていきたいなって」

不思議なもので、言われてみればたしかに柴犬が上を向き遠吠えしているように見えてくる。そんな茨城で、ふたりがブランドを立ち上げたのは2年前。その立ち上げまでのストーリーはもう少し前まで遡る。

茨城県出身の将史さんと、長崎出身の裕子さんは、それぞれファッション業界への憧れを抱え上京。東京のファッションの学校で出会い、デザインや服作り、ファッションビジネスについて学んだ。「いつかファッション業界で仕事がしたい」という夢を叶え、将史さんはセレクトショップ、裕子さんは子供服メーカーに就職した。

自分たち自身で物を作るのも好きだったふたりが、草木染めに出会ったのが茨城県だった。知り合いに連れられたのは、茨城県常総市にある「染色村」。一時は120人もの染色家が集まり住んでいたという村で藍染体験をさせてもらったとき、「自分たちのものづくりに生かせるんじゃないか」と、しっくりきたという。

「ものづくりをするときに、“色から”自分たちで作ることが新鮮だったし、そこからできたらいいな、と思ったんです。草木染めは地球にも優しく、自分たちで配慮しながらものづくりできるのが最高だな、と」

そんな草木染めと、農家から出る廃材がつながったのには、もうひとつのきっかけがあると将史さんは続けた。

 

ふたりで、廃材を“再び”蘇らせる

藍染体験と時期を近くして、ふたりは将史さんの父親から「りんご狩りに行かないか」と誘われる。向かった先は、茨城県大子町にある『藤田観光りんご園』。

「僕は茨城でりんご狩りができることすら知らなかったんです。さらに大子町に行って、都会と比べ物にならないほどの自然の豊かさに驚きました。茨城出身なのに、茨城のことを何も知らなかったんだって」

「りんご園の藤田さんと話していると『関さんみたいに、茨城でりんご狩りできることを知らない人が多いんだよ』って言われたんですね。自分が生まれ育った場所の、知らなかった魅力をどうにかものづくりで表現し、伝えることはできないか。そう考えたとき、染色村で藍染体験をした時に木枝などでも染料になるんだよと言っていたのを思い出したんです。藤田さんにお話したら、虫がついたりして剪定した木があるから持っていってもいいよと言ってもらいました。それを持ち帰って染めてみたら、びっくりするくらいきれいな黄色になったんです」

その後、少しずつ廃材を提供してくれる農家さんや染められるものを増やしていったfutashiba248。ふたりのことを知ったブルーベリー農家さんから「剪定した枝や、虫が食べたり傷があったりしてジャムにもできない実がある。染め物に使えませんか?」と、問い合わせが来たこともある。

さまざまな茨城の農家さんを紹介したいという想いから、自分たちから農家さんに連絡することもある。

「最初は『そんな廃材もらって、何するんだ?』って怪しまれることも結構ありますね。しっかりと関係性を作ってきて、ようやく6軒の農家さんとやりとりさせてもらえるようになりました」

農家さんたちと会話をしていてわかったのが「廃棄するのにも、お金がかかる」ということ。地区によってはある程度までは無料でも、それより多くなると有料になってしまうのだ。

「その無料枠からはみ出た分だけでも、僕たちが引き取ることができれば、農家さんにとってもメリットがあるんじゃないかと思っています。さらに、futashiba248の商品をとおして、地域の農家さんのことや、彼らのものづくりを知ってもらえたら、それが一番嬉しい形ですね」

 

アイテムひとつでも「良い循環」を作りたい

これまでの2年間、futashiba248はさまざまな催事に出店し、ふたりの商品を手に取る多くの人々に出会った。やはり、ブルーベリーやメロンの葉など、珍しい染色に興味を持つ人が多かったという。

「そこから茨城県の特産品や農家さんの話になることも多くて、作り手に想いを寄せてくれるお客さんも多くいることがわかりました」

そんな中、周りから「SDGs(持続可能な開発目標)に当てはまるね」「エシカルな商品だね」という言葉を聞くように。時代の流れとしても、環境問題を見直そうという頃で、ふたりが共に歩んできたファッション業界も環境問題と無縁ではなかった。当然のように、自分たちのものづくりでも環境に配慮していきたいという想いは強くなっていった。

futashiba248では、染めた後の廃材の一部はコンポストで堆肥にし、地球に還す。商品自体も化学繊維を使わず、すべてシルクや綿などの天然素材で作ることを心がけているものばかりだ。今後は、梱包にもプラスチックを使わない方法を模索していきたいと話す。

「ただ、化学繊維やファストファッションが悪いと思っているわけではないんです。私たちも天然素材の服だけで生活しているわけではないですし」

裕子さんの言葉に、将史さんも頷く。

「コーディネートする中で、一点だけでも僕たちのような活動をしているブランドのアイテムを取り入れてもらえたら、という気持ちです。少しでも取り入れてもらえれば、良い作り手やものづくりが残っていくんじゃないかと考えています」

りんごの木やメロンの葉など、農業から出た廃材で染めたfutashiba248の商品。地球からもらったもので物を作るふたりだからこそ、そこからの循環は良いものにしていきたい、と話す。それはfutashiba248の商品の、終わりまで見据えた考えだ。

「現在、年間100万トンの洋服が廃棄され、燃やすことでCO2が発生して地球温暖化につながる良くない循環が進んでしまっています。土に還る洋服が作れれば、燃やさずに微生物が食べて消えていく。そういう循環をもっと作っていきたいんです」

そんな想いが見えるのが、新商品「土に還る」靴下とマスク。和紙を原料にした生分解性に長けた新素材で、最後まで地球に優しい商品だ。和紙自体が持つ抗菌性や保湿性を生かした靴下やマスクは、使う人にとっても使い心地が優しい。futashiba248が目指す「良い循環」は、地域にも都会にも広がっていく。

 

地球と地域に寄り添って

商品開発の他にこれから取り組みたいことを聞くと、農家さんとのコラボレーションを考えているという。

「例えば、農家さんのブルーベリー狩りやりんご狩りの一角で草木染め体験をしたり、逆に私たちが主催する草木染め体験に農家さんに来てもらい、お話ししながら染めたり。そんなふうにお客さんと農家さんをつなぐ場を作っていきたいですね」

地球に寄り添いながら草木で商品を染め、地域に歩み寄りながら人々をつなぐ。茨城には、特産品を活用して、こんなに優しい商品ができている。

「自分たちも茨城の魅力を『知らなかった』ところからスタートしているし、実際まだまだ知らないことも多い。茨城を盛り上げていこうしている人たちともつながって、より地域や人々をつなげる活動をしていきたいと思っています」

茨城について何も知らなくても、ふたりと話していると「なんだか、茨城ってすごいぞ」と感じる。茨城の特産品や、そこにいる「人」を、ちゃんと知ろうとするふたりが作るから、futashiba248の商品には本当の茨城の魅力が詰まっているのだろう。

futashiba248のふたりが作る商品が気になった方は、こちら

この記事の商品を購入する
¥ 3850

※消費税が含まれています。

※この商品は送料無料です。

商品ページへ