「日本は安全で住みやすい国だと聞いていたのに、外国人というだけで部屋を貸してもらえない。どうしてだろう」

私が働く都内の日本語学校で、外国人留学生がつぶやいた。

「賃貸住宅のオーナーも不動産会社も、あまり外国人に慣れていなくて、日本のルールを守ってくれるかどうか心配なんだと思うよ」

貸す側や近隣住民の気持ちもわかる。ゴミ捨てのルールは国によって違うし、日本国籍ではない人に、家賃の振込方法を日本語で理解してもらえるかどうか不安なのは当然だ。

ただ、わたしは日本が好きなので、外国人にも日本が好きになってほしい。日本で活躍できるようになってほしい。だから、どうにか外国人でも部屋が借りられるような解決の糸口を探すが、なかなか見つからない。

法務省によると、2019年3月時点での在留外国人は273万1,093人。2018年から16万9,245人増え、過去最高となった。

それにも関わらず、外国人に部屋を貸さない管理会社や住宅オーナーは未だ多いと聞く。支援の動きはないのか調べてみると、ある会社がヒットした。

「Global Trust Networks」、略して「GTN」。外国人の部屋探しや賃貸保証だけではなく、入居後のサポートまでを行なっている。さらに、オーナーや管理会社側の相談にも乗っている会社だ。

「私は日本が大好きだから、外国人入居者と周囲の日本人、両方の不安を解消したい」

そう語るのは、GTN取締役で自身も留学生だった董 暁亮(とう しょうりょう)さんだ。日本人と日本に住む外国人、双方の未来のために、GTNはどのような支援をしているのだろうか。具体的に話を伺った。

若林 理央
読書が好きなフリーライター。大阪に生まれ育ち2010年に上京。幼少期からマジョリティ・マイノリティ両方の側面を持つ自分という存在を不思議に思っていた。2013年からライターとして活動開始。取材記事やコラムの執筆を通し「生き方の多様性」について考えるようになる。現在は文筆業のかたわら都内の日本語学校で外国人に日本語を教えている。

住まいを探す外国人と、住まいを貸す日本人の不安

多様な国籍の人たちでにぎわう街に、GTN新大久保支店があった。外国人のスタッフが笑顔で出迎えてくれた明るいオフィスには、相談に来ている外国人のお客さんの姿もあった。

「GTNは国内外あわせて8拠点あります。社員の約7割は外国籍です。20カ国以上の国籍の社員がいます」

董さんがにこやかに説明してくれる。役員は董さんを含め3人いて、代表を除く2人が外国人だそうだ。やがて董さんは、母国にいた頃のことを話し始めた。

「私は四人兄弟の末っ子です。三人の兄たちが先に日本に留学していて、中国にいた頃から日本に影響を受けることが多々ありました。現在、兄たちも日系企業で働いています。日本に興味を持った理由はもうひとつあります。留学前に中国で三洋電機の関係会社に勤務していたんですが、マニュアルや操作画面がすべて日本語だったんです。仕事が終わってから現地の日本語教育機関に通い、日本語を習いました。当時は日本人の上司や同僚もいましたね」

やがて機が熟し、四年間務めた三洋電機を退職。2001年に学生ビザで来日し、二年間、葛飾区の日本語学校に通った。当時の住まいは、日本に住んでいた兄に紹介してもらった。

「家探しで苦労したのは、日本語学校を卒業し首都圏の大学に進学したときです。大学の近くに住みたいと思い、引っ越し先を探し始めました。キャンパス周辺の不動産会社を回ったのですが、連帯保証人がいないことを理由に全部断られてしまいました。

外国人入居者の連帯保証人は、日本にいる両親にお願いできなければ、なかなか審査が通りません。原則親以外に兄弟でも なれるケースがありますが、不動産会社のルールでは連帯保証人は安定した収入や日本国籍を求められるケースが多いのです。私の場合、兄は日本にいましたが親は中国にいたため、日本国籍の連帯保証人を出してほしいといわれていました。

『連帯保証人は大学関係者でも大丈夫です』と言ってくれる不動産会社を見つけ、大学の窓口で事情を話すと、協議のうえ、関係者が連帯保証人になってくれました。ただ、その後外国人の学生が増え始めると、関係者が連帯保証人になることは学内で禁止されたそうです。外国人の後輩たちは、部屋が見つけられず苦労していました。

空室があるのに外国人には貸さない不動産会社もあります。日本の住宅ルールを守り、家賃を毎月きちんと払ってくれるのか、貸す側も不安なんでしょうね。2000年代半ばは、GTNのような親の代わりに賃貸住宅の連帯保証をしてくれる会社が少ないうえに、あまり知られていなかったんです」

当時は、留学生に住宅の総合保証サービスを提供している大学も存在していた。もちろん賃貸住宅の連帯保証人代わりのサービスもあり、董さんの後輩たちはそれを利用していたという。

しかし、近年、留学生の数は十年前とは比べものにならないほど増え、多くの大学が留学生総合補償サービスを廃止した。学内での保証サービスを廃止する代わりに、GTNを紹介する大学もある。しかし、外国人が住まいを借りにくい状況はいまだに続いている。

「知らないから怖い」は解消できる

董さんは日本語学校卒業後、日本で大学へ進み経済学を学んだ。大学卒業後は日本の金融関係の会社に就職し、不動産の連帯保証サービスに携わっているグループ会社に出向して経験を積んだ後、2010年にGTNに転職。入社後は社員として債権管理部署や生活サポート部署を立ち上げた。2016年には執行役員に就任、その一年後には取締役になった。

現在は、人材紹介事業や外国人向けモバイルサービスも展開しているGTN。設立当時から変わらず続けている事業は、賃貸保証と部屋探しだ。董さんはGTNで働くようになって初めて、賃貸住宅が借りにくい外国人につけこむ悪徳業者の存在を知った。

「日本の物件を探す外国人が来日する前に、きれいな物件の写真を見せて、契約時に写真とはまったく違う不潔で古い物件を借りさせようとする業者もありますね。GTNでは契約前の内見でプロの外国人通訳を同行させ、最初に見せた写真の物件と明らかに違っていた場合は契約しないと、その場で業者に伝えています」

悪徳業者は見つけ次第自治体に報告し、注意喚起をしてもらうようにしているそうだ。しかし、問題はそれだけではない。

「日本語の契約書の意味がわからないまま契約してしまう外国人入居者も多いんです。彼らは『わからない』と言うと部屋を貸してもらえないと思い、わかったふりをして部屋を借ります。もちろん、入居後トラブルになるケースもあります。

他にも、外国人が日本で住まいを探すのは難しいと知らないまま日本へ来て、借りられないままホテル暮らしが続いてしまったという話もよく聞きますね」

部屋が借りられず困り果てていろいろな不動産会社をまわり、ようやくGTNにたどりついた外国人も多いそうだ。

現在、GTNでは海外拠点を増やし、海外からでもスムーズに日本の家を探すことができるようにしているという。海外拠点で契約した物件の鍵を、空港で受け渡しできるように羽田空港の店舗も設置予定だ。

「部屋が見つからず困っている外国人と、外国人に部屋を貸すことを怖がっている不動産会社、オーナー、そして近隣住民。それぞれの気持ちはわかります。でもそれは、解決できることが多いんです。

たとえば、外国人に家賃を督促したのにいつまで経っても払ってくれない、という相談をオーナーから受けたことがありました。日本語がわからない入居者だったので、母国語で聞くと、督促の内容を理解できていなかったことが判明しました。家賃に関しては口座振替で支払い済みだと思い込んでいたようでした。悪気があってしたことではなく、口座振替の手続きが終わっていないこと自体、気づいていなかったんです。

GTNで支払いができていないことを入居者に伝え、銀行での振込方法を母国語で教えることで、解決に至りました。当社の窓口が多言語対応しているからこそ、できたことだと思います」

賃貸物件のオーナーや管理会社のほとんどは、外国人と接した経験が乏しい。言葉が通じない彼らは日本人オーナーたちにとって未知の存在で、「知らない」ことが恐怖につながってしまうのだ。

しかし、コミュニケーションを通して「知る」ことで、その恐怖は解消できる。多言語で対応ができ、日本と入居者の母国両方の文化を知っているGTNは、そのコミュニケーションを円滑にしているのだ。

 

多言語対応で外国人入居者とオーナー、不動産会社をサポート

「GTNは社員の7割が外国人なので、多言語対応できるのが強みです。日本語の賃貸契約書を外国人入居者がわかるように翻訳し、要望があれば賃貸物件を見に行くときに同行して通訳します。

当社の外国人社員は、元留学生か日系企業から転職してきた人がほとんどです。だから外国人入居者の気持ちもわかるし、宅建の資格を取って不動産関係の知識を蓄えている社員もいます。

外国人入居者のお客様からも『契約内容がわからなくて困っていたが、言葉が通じる人に解説してもらえてとても安心した』と感想をいただいています。契約時は念を入れて母国語で説明しているのですが、その成果は目に見えて表れていますね。

また、外国人社員たちが日本に来た頃の経験を活かして、日本の住宅ルールを母国語で教えます。ゴミ出しのルールやATMを使った家賃の支払い方法も、日本語がわからなければ難しいですよね。外国人に教えるための翻訳資料もあります」

そういえば、ロビーには日本に住む際のルールを映像化したモニターがあった。私が見たときはネパール語だったが、これも多言語で用意されているらしい。

「住まいの悩み事があればすぐに電話してもらえるように、多言語対応の生活サポート部を設けています。GTNの利用者の方には無料で悩み相談を受け付け、毎月約6000件のトラブル解決に至っています」

6000件。思わず声をあげてしまった。具体的にはどんなトラブルの事例があるのだろう。

「冬になると「IHコンロが使えない」という相談がときどきありますね。原因がIHコンロのメーカーなのか、管理会社なのか、そもそもIHに対応していない鍋だったのか…私たちは外国人入居者から相談を受ける際、徹底的に母国語でヒアリングをして、根本的な原因を明らかにしています。

オーナーや管理会社から『入居者にこれを母国語で伝えてほしい』という問い合わせもあります。母国語だと今まで伝わらなかったことも伝わるようになるので、物件を貸す側と借りる側、両方が安心感を得られますよね」

たしかに、間に通訳となるGTNが入ることで、外国人入居者とオーナーや管理会社のトラブルは解決しやすくなる。だが近隣住民はどうだろうか。それだけで理解を得られるのだろうか。

「管理会社から『外国人家族が近隣に住み始めたとたん、ゴミ出しルールが守られなくなったと住民からクレームがあった』と注意喚起の依頼がきたことがあります。本人は『ゴミ出しはまだ一度もしていない』言ったのですが、信じてもらえませんでした。

私たちはクレームがあっても、証拠がない限りは決めつけずヒアリングを繰り返し事実確認をすることを心がけています。コミュニケーションを取る中でわかったのですが、そもそも本人たちはゴミ出しの日、帰国していて日本にいなかったそうです。説明してようやく、管理会社や住民の方にも理解してもらえましたね」

『外国人の部屋から騒音がする』というクレームも、調べてみると他の部屋からの音だったり、マンションの構造上の問題だったりする。

実際に外国人入居者がルールを守っていなかったというケースも、もちろんあった。その場合は、証拠をそろえて入居者に注意喚起するようにしているそうだ。

双方からしっかりとヒアリングし、意思疎通させる重要性を実感しているGTN。それでもやはり、日本人オーナーや近隣住民の理解を得るまでには困難があるようだ。GTNは現状に満足せず、改善策を進める。

現在は異文化共生団体や厚労省、自治体と意見交換をする機会を増やし、空室はあるのに外国人に貸さないオーナーが多いことに対しての改善方法を話し合っているそうだ。

「日本に定住することを望んでいるほとんどの外国人は、日本が好きで来日しています。それなのに住居を探すのに苦労して日本が嫌いになる、という事態はとても悲しいし、避けたいと思っています」

日本人と外国人の間の壁がなくなった未来にあるもの

「知らないもの」に対する恐怖を取り払い、外国人と日本人の間に信頼関係を築いていった結果、生まれるものは何なのか尋ねると、董さんはうれしそうな表情になった。

「例えば、同じ時期に日本人と外国人、両方から入居の申請があったとします。今まではだいたいのオーナーは日本人を優先していたんです。しかし、オーナーが当社の家賃保証サービスなどを利用して安心感を得られると、国籍関係なく立場が対等になります。

外国人と日本人の間にある壁を少しずつなくしていくのが私たちの役目です。社長も含め、私たちは役員も社員もみんな日本が大好きなんですよ。他の国より治安が良くて、飲食物の安全性も高い魅力的な国です。だから日本で住まいを探すうえでの困難を解消して『日本は住みやすい国だ』と他の外国人にも思ってほしい。

外国人に関する報道は、違法就労や不法滞在など、ネガティブなものが先行しています。そういった情報を信じて外国人が近隣に住むことに不安を感じている人は、自分の不安の原因は何なのか、一度考えてみてほしいです。周りを見回せば、意外と自分の回りにも外国人が存在していることに気づくと思います。外国人が抱える問題を自分のことのように共有し、対等に見てほしい…それが私たちの願いです」

GTNのオフィスでは多様な国籍の社員の方が、目が合うたび笑顔であいさつしてくれる。「日本人」と「外国人」の間にある壁がなくなった後の、明るい未来を体現しているような会社だった。

衣食住が満たされない状態で、異文化共生は成り立たない。その「住」を支えるGTNが手を差し伸べたいのは、外国人と日本人両方だ。

「日本に憧れている」「日本に住みたい」「日本で働きたい」夢をもって来日した外国人たちが、住まい探しの時点で日本に失望し帰国してしまう…そんな事態は日本の未来にとっても何のメリットにもならない。「外国人のことはよく知らないから怖い」ではなく、知ろうとすることが必要だ。

日本人も外国人も関係なく、「日本は住みやすい国だ」と言える人を増やしたい。GTNの思いを聞き、外国人に日本語を教える私の心にも希望の光が宿った。