KACOMIは、秋田で育った樹齢約60年の杉から作られたお皿。軽さは陶器の約1/5、広葉樹の約1/2で繊細な木目が特徴だ。

「みんなで囲める大きな大きな木のお皿」というコンセプトをもとに「KACOMI」という名前がつけられた。サイズ展開は、一般的に取り皿として使いやすい五寸(w150mm,t21mm)から始まり、最大では二尺五寸(w750mm,t40mm / 10~15人用)までの10種類にも及ぶ。

二尺五寸の実物の印象は「とにかく大きい!」に尽きる。そして大きな分だけ杉の持つなめらかな木目が美しく、つい手を伸ばして触れてみたくなる。しっかりと厚みがあるのに想像したよりも手取りは軽く、柔らかな肌触りが気持ちいい。

秋田の森のなか、雨や雪にも負けずに時間をかけて根を張り、幹太く育った木々の持つ生命力と、あたたかさ。使っているうちに、こちらが元気づけられそうだと思った。

手がけるのは、秋田で木材加工会社「佐藤木材容器」代表を務める佐藤友亮(ともあき)さん。家業に従事して15年、佐藤さんが3代目を継いで10年が経つ。


会社を継ぐまでの5年間は「いずれ辞めてやろうかくらいの気持ちで、仕事より遊びに行くほうが楽しかった」と振り返る佐藤さんだが、お父さまの病気をきっかけに経営側に立ったことで、仕事への向き合い方も林業への関心も大きく変化したと言う。

2019年、地元・秋田の杉を使ったブランド「KACOMI」を立ち上げるに至った経緯と、佐藤さん自身が森へ寄せる想いをうかがった。

中條 美咲
長野県出身。「紡ぎ、継ぐ。見えないものをみつめてみよう」という指針のもと、競争ではなく協奏できる生き方を模索してスロウに活動中。これまで手仕事やものづくりの現場取材を中心に重ねてきた。布やうつわなど、懐の深い生活道具(文化)の世界をこよなく愛す。

自分から売りに行けるものを作らなければ

昭和40年に創業された佐藤木材容器は、生まれ育った五城目町(ごじょうめまち)の山からいただく木材で「人と人をつなげる食」を届けるための容器を作ってきた会社。佐藤さんは、2016年9月にお父さまが他界されたことを機に、それまで95%を占めていた問屋経由の受注スタイルを見つめ直したと話す。

「このまま業務用トレーだけを作り続けていても、この先がないぞと思ったんです。少しずつ売上が下がってきていたこともあって、きちんと自分から売りに行けるものを作らなければいけないなと。そこで初めて、個人向け商品の製作を考え始めました」

2017年2月、知人の勧めで東京・青山で開催されていた『ててて見本市(現・ててて商談会)』へ足を運んだことが大きな転機となった。

「その場の空気がすごくて。ものづくりのクオリティはもちろん、出展者がバイヤーさんとやりとりしている姿に感動して、1年後は難しくても2年後には「絶対にここに来る」と決めました。そのときの衝撃がキーポイントというか、行っていなければ今は何もやっていなかったと思います」

目標設定はしたものの、個人向けの商品開発が初めてだった佐藤さんは後日、デザイン活用の視点から幅広く秋田県内の企業支援を行う公益財団法人「あきた企業活性化センター」内のあきた産業デザイン支援センターへ足を運んだ。そこで工業デザイナーの経験を持つ、相談員・武藤貴臣(たかおみ)さんと出会ったことは幸運だったと振り返る。

「商品自体は自分たちで作りあげていったんですけど、グラフィックなど専門的な相談相手をつないでいただいたのは武藤さんで、本当にいい人に出会えました」

武藤さんを通じて知り合ったプロダクトデザイナーの若杉浩一さんとの話のなかで、秋田の杉を使った大きなお皿という案が浮かび、友人でもあり京都でデザイン会社「UMMM(ムム)」を主催される北原和規さんの全面的な協力をもとに、KACOMIの世界観が生まれたそう。

北原くんには、HPやロゴ、パンフレットなど、出展に必要なデザイン周りを全部やりましょう!と、全面協力をしてもらいました。そうしたつながりのおかげで、2年後になんとか目指してきたところに辿り着けたという感じです。

 

コロナ禍で3,4ヶ月受注がゼロに

2019年2月、目標としていた「ててて見本市」に初出展したことを機に10店舗と契約が成立。佐藤さんは、「新たに動き出した感じがした」と嬉しそうに話してくれたが、時間を置かずに大きな困難に直面することになった。

「年が明けてしばらくすると、新型コロナウイルスの影響でKACOMIを含む商品の受注が途絶えてしまい、2020年の4〜8月までは月の売り上げが1~2万円くらいで入金もなく、実はその年の4月末に入籍したばかりだったので、どうしていいかわからなくて。嘘でしょ……という。だからもう新婚当初は借金と給付金を切り崩して生活をしていて、今思うとホント、しんどかった。よく生き延びてここに来ているなと思います」

佐藤木材容器は、創業以来「人と人をつなげる食」を届けるための容器を作ってきた会社。しかしこの度のコロナ禍で何よりも避けられ規制の対象となったのは、人々が集い食事を囲む場そのものだった。そのため月次売上が昨年比の2%~12%まで落ち込むほど、佐藤さんの仕事にもダイレクトに影響を及ぼした。

「いや、もう、かなり辛いです。なので正直、「囲む」ということ以外はコンセプトからズレるから微妙じゃないかと思いながらも、大きいサイズの需要が極端に減ってしまったため、ワンプレートやお皿のサイズ展開を増やしたりもしています」

「私は単純に、親しい友人と集まってわいわいと食事を囲んで話したりすることが大好きで。だからこそ、またそういう日常が戻ってくる日を夢見て、今は黙々と人と人をつなぐためのお皿を作るときなのかなと。考えても仕方がないので、この間はひたすら手を動かして製作に集中していました」

 

本来の森に戻すため、今ある森でできることは何か?

佐藤さんの故郷は、秋田県南秋田郡五城目町(ごじょうめまち)。地元のシンボルとして親しまれる「森山」を背に周囲を森に囲まれる一方、平地には肥沃な水田が広がる林業と農業の町。

「創業した祖父の代では、桶や樽用の板を木材で加工する仕事が中心でした。加工した板を港へ送ると、その場で組んで漁業などに使っていたそうです。今は発泡スチロールに変わっていますけど、昔はすべて地元の木材で賄っていました」

「五城目の町全体で人が暮らすのはほんの一部で、81%は山林で鬱蒼とした森なので、木材産地といってもいいと思います。近隣の山から木を切り出して、本当に林業が盛んな場所だったんです」

けれど、町の木材産業はこの半世紀をかけて衰退の一途を辿ってきた。

「今、地元の林業会社でまともに動いているのはわずか数件。町でも管理ができなくなっている部分もあって、森が少しずつ荒れてきています。手入れが行き届かないと、今度は木材としての質が低下してしまうんですね」

日本では戦後、国内の木材需要が急増したことにともない「拡大造林政策」が推進された影響で、広葉樹からなる天然林を伐採した跡地や原野の多くは針葉樹中心の人工林へと置き換えられた。こうした背景もあり、五城目町の森林も植林された木々が大半なのだそう。

「民友林と国有林があって、どちらも植林された森。天然の森はもはやほとんどありません。人工林の場合「間伐」といって木と木の隙間を開ける作業も必要で、かつては林業の人たちが担っていたのですが、今は担い手も少なく間伐にも手が回らなくなっています。

「最近は自伐型林業が各地で行われていますが、自伐ってなかなか難しくて。五城目町は県内で3番目に高齢化率が高く、47.5%が65歳以上。個人が所有する森の管理も高齢化にしたがって、もうやりたくないという方が多いですね」

日本は国土の約7割が森で、そのうちの4割はスギ・ヒノキを中心とする人工林という状況だ。林業における高齢化や人手不足、植林された森の管理の難しさ───、それらは五城目町に限らず、日本全体が抱える問題とも言えるだろう。佐藤さんは植林によって偏った森を、少しでも天然の森へ近づけるためにどうしたら良いか、森林保全や林業に関わる人たちと知恵を交わし、できることをしていきたいと話してくれた。

「植林しているとどうしても偏った森になってしまうのですが、それって本当に良くなくて、元はどんな森だったのだろうと考えてしまいます。たとえば、杉を切り拓いたところにマツを植えると鳥が運んできた木の実からミズナラなどが生えてくるそうで、アカマツとかカラマツってほかの木が生えてくると倒れるんです、自然と。」

「僕らが構わなくても森はいずれ元通りになるはずで、それを手助けしてあげるのが自分たちの役目。でも杉を植えてしまっては、広葉樹を主とした本来の森には戻れない。だから、今ある杉を全部使っちゃいたいねと、地元の林業の方と話をしていて。現在、来夏の竣工を目指してKACOMIとは別軸の有志が協働し、柱のない秋田杉の木材パーツで組み立てる家を町内に5棟建てる計画も進行中です」

佐藤さんは、森自身の回復力を止めないように、植林による木材をきちんと活用することの重要性に触れた上で、森や町のこれからについて、長い視野で手間を惜しまずに関わっていく必要があると言う。

「70年後にうちの町が残っているかわからないし、限界集落になってしまえば産地として残っていられないかもしれない。崩れていくときは本当に早いペースで崩れていくけれど、林業や森づくり、人の育成も時間がかかるので、元に戻すのはものすごく大変。でも何かを残せるとしたら、今の森をきちんと育てていくしかないと思うんです。今後は、市町村を越えて広域的に林業を行える人の育成や仕組みができれば良いと思います。」

「True North, Akita. #1」五城目町を舞台に「augment5 Inc」が手がけたショートムービー(2016年公開)

True North, Akita. #1 from augment5 Inc. on Vimeo.

 

身近に森を感じてもらうきっかけとして

木材加工の仕事に携わり15年。いつしか材料として使う木材の地続きにある森の存在、木々の育つ環境へ向ける意識が大きくなったと話す佐藤さん。今回のパンデミックの影響で引き起こされたウッドショックは、林業のこれまでのあり方を見直すいいきっかけになるのではないかと教えくれた。

「今ちょうど、ウッドショックといって木材価格が極端に高騰していると言われていますが、実は30年前とほとんど同じ値段なんです。輸入木材が安すぎる影響でこれまで値下がりしていた国産材が今回上がったように見えるだけで、この適正価格が今後も維持できるようになれば、林業が衰退しなくなったということ」

「だから、現行の価格が本来の適正価格というのをお客さんにきちんと伝えた上で、林業の育成をここから始めることが大切で、今がいいきっかけだと思います」

林業の課題を解決するためには多くの時間と人手がいることは間違いない。一方で、それは林業に携わる人、産地や生産現場の人たちだけの話ではないだろう。その物を使用し消費する私たち使い手側の意識が変わらなければ、供給する側も継続して運営していくのは難しい。日々、食べる物や生活のなかで使う物、それらはどんな生産背景を持ち、どのような想いをもった生産者から届けられるのか。

身の回りのすべての物へ想いを馳せることは容易ではない。けれど、使い手自身も価格や流通の背景へ目を向ける習慣を育てていくことが求められると、お話をうかがいながら私(筆者)は思った。

「KACOMIは、​​木を日常的に使ってもらうための一歩だと思っていて。陶器や磁器に比べると木の器はまだまだ馴染みが少ない上に「扱いづらい」「カビが心配」と、最初から少しマイナス面で見られている部分もあるので、「いやいや、洗剤で洗えるしカビないですよ」「一枚あるだけで食卓の雰囲気が一気に変わります」と、まずは伝えることからですね」

「使いながら木が育った秋田の森になんとなく想いを馳せてもらえたら嬉しいですし、「じゃあ今度、五城目町へ行ってみようか」というきっかけになったり。日々の食卓に並ぶお皿を通して、そんな風にちょっとした変化が生まれたらいいなと」

取材では終始、明るく温和な調子で語ってくれた佐藤さん。多くの困難を前にしても、持ち前の柔軟さと人柄で周囲と協力しながら、森や林業のこれからのためにできることを実現していく姿が目に浮かんだ。

そして、KACOMIとともに食卓をひらき、親しい人と集いつながるその日のために。佐藤さんはこれからも前を向いて、秋田の杉を使ったお皿を丁寧に作り続けていくのだろう。

【佐藤木材容器】

住所 南秋田郡五城目町大川谷地中字堰添35

TEL 018-852-4748

HP http://satomokuzaiyouki.jp/

【写真提供】

五城目町(5,7枚目)