「わたし、釜石に住んでみたい。」
そう思ったのは、2017年の夏の終わりのこと。
徳島生まれ徳島育ち。大学進学も徳島県内で、一度も徳島の外に出て暮らしたことがなかった。
そんなわたしの、挑戦のおはなし。

釜石で挑戦しているのは、「鐡珈琲(クロガネコーヒー)」というコーヒーブランドの取り組み。
今回は鐡珈琲ってどんなコーヒーなのか、わたしはどんな挑戦を行っているのかをお伝えします。

田中 美有
地元の素敵な人やものを伝えたい。そんな思いで、徳島から「ハートに火をつける」ストーリーをお届けします。

釜石に住み始めて早8ヶ月。

 

こちらに来てやっぱりいいなあと思う瞬間は、みんなでご飯を囲むとき。

楽しい場で食べるごはんはついつい食べ過ぎて、釜石にいる時間が経つほどに体重は増加傾向に(いわゆる幸せ太り…)。たこ焼きをクルクルしたり、わかめをしゃぶしゃぶして色が変わる瞬間はワクワクするし、最近は生ウニの虜に。

 

食べているばかりではなく、今わたしが休学して釜石に住んでいるのは「鐡珈琲」のブランディングに携わるため。2017年5月に開業した釜石のカフェ「blua cielo(ブルーア シエーロ)」で自家焙煎珈琲として取り扱っていたコーヒーを、オーナーの「もっと地域のひとに飲んで欲しい。珈琲で地域を盛り上げたい」という思いから「鐡珈琲」と名付けてブランド化した。

 

釜石に来る前は「1年間もある」という感覚が、来て1ヶ月もしない間に「1年間しかない」に変わった。

 

鐡珈琲はどんな珈琲なのか、ブランドの基礎を整え、発信する。ブランド化した鐡珈琲を、より多くの人に知ってもらう。出店や、企画で提供の場をつくっていく。そして、地域の人に飲んでもらう。

 

商品を作り、発信し、知ってもらい、飲んでもらう。一連の積み重ねが「ブランド」になるためには必要で、「地域のブランド」になるには長い年月がかかる。そういったことを身をもって感じたのは始めの1ヶ月。釜石に来る前は、この1年間でまずは地域に知ってもらえる取り組みができたらいいなと、ふんわり考えていたけれど、1年でできることは限られる。じゃあ、この1年で何をすべきなのかと考え始めた。(現在の取り組みについては、後ほど詳述します)

 

ここでカフェ店主の山崎鮎子さんをご紹介。鮎子さんは「blua cielo」のオーナーであり、プロのフルート奏者であり、小学生の双子の母であり…と、とってもパワフルな方。

 

カフェの店名である「blua cielo」は宮沢賢治の愛した言語・エスペラント語で「青い空」という意味で、鮎子さんは「みんながつながっている青空が大好き」とよく話している。わたしは鮎子さん自身が、晴れた広い心でみんなを包み込んでくれる、青空みたいな人だなと思う。

 

体にすっとなじむ。

毎日飲みたい。

みんなに愛される味だろうなあ。

わたしが初めて、鐡珈琲を飲んだ時の感想だ。なぜこのように感じるのか。その理由は鮎子さんのこだわる「安全安心」にあった。

 

鐡珈琲って?

「コーヒーで安全安心?コーヒーって安全なものじゃないの?」

そう首をかしげる人も多いでしょう。わたしも最初はそのように感じていたひとりだった。

 

鮎子さんは、いつもこんなふうに言う。

 

「わたしたちの手に届いたところから、最大限、安全安心なものに」

 

コーヒーの原材料である、コーヒー豆の生産地は海外。海の向こうで育てられたコーヒーが精製される過程、運ばれる過程、すべてをわたしたちの目で見ることはできない。だから、せめて「わたしたちの手に届いたところから」は、手間がかかっても安心して飲めるものにしたい。そんな鮎子さんの思いが「安全安心」という言葉には込められている。

 

そのために鐡珈琲が取り組んでいることで、特徴的なのは生豆の水洗い。生豆は海外で精製され、運ばれる過程でホコリや汚れが付着していることが多い。そのため、お米を研ぐように、優しく表面に付着した汚れを落とす。(はじめて水洗いをした時には、水の濁りようにびっくりした)

 

水洗いは、汚れを落とすだけでなく、味わいにも大きく影響する。水洗いをすることによって、雑味が少なくなり、コーヒーの味わいがクリーンになる。雑味が少ないため「初めてブラックで飲めた」というお客さんも多い。嬉しい。工程が増え手間がかかるため、水洗いをしているロースターは少ないが、わたしたちは水洗いが安全安心、そして美味しさにつながると信じ取り組んでいる。

 

そんな鐡珈琲が目指すのは「地域のコーヒー」になること。

 

海外から輸入されてきたコーヒーは、もともと「地域のもの」とは言えない。地域の人たちに鐡珈琲でホッと一息ついてほしい。地域で育てられたもののように、地域で消費されて愛されるものになってほしい。コーヒーで、地域を盛り上げたい。鮎子さんはそんな思いを持ちながら「地域のコーヒー」としての鐡珈琲のブランド化を目指している。どのような取り組みを通じて、鐡珈琲が「地域のコーヒー」になるのか。それを考えるところから、わたしの挑戦は始まった。

 

地域のコーヒーになること

地域のコーヒーってなんだ?何をすればそうなるの?明確な正解がない問いに、鐡珈琲としての仮説を考えて、実践していかなければならない。

 

 

カフェや出店でお客さまと触れ合い、鮎子さんと対話し、休学から2ヶ月くらい立った頃、自分のなかで仮説ができ上がった。仮説が「できた!」というよりも、出店や取り組んでいることに対しての意味を問いながら「整えた」という感覚。

 

 

現在は「地域のコーヒーになること」ための取り組みとして、3つの仮説を立てて挑戦している。

 

1つ目、地域で消費されること。釜石の人が、「釜石のコーヒーといえば、鐡珈琲の味だよね」と言ってくれるような存在でありたい。そのための取り組みとして、イベント出店をするなど、まず飲んでもらう機会を増やしている。おそらく長い年月がかかるけれど、地道に。

 

2つ目、地域のものとコラボレーションすること。地域のものを使って、味そのものから「地域の味」を表現する。現在は岩手が誇る南部鉄器で沸かしたお湯で淹れてみたり、釜石で採れる農作物をブレンドしたコーヒーを企画中。

 

「地域で育てられたわけじゃないコーヒーは、いくら地域のストーリーと関連づけても、本当の意味で地域の味じゃない」

 

そんな思いをぼんやりと抱いているなかで、思いついたコラボレーション企画。地域のものを使うことで、「地域の味」をダイレクトに感じられることも「地域のコーヒー」になるひとつの方法だと考えている。

 

3つ目、地域を盛り上げるものであること。「鐡」という名前は、近代製鉄発祥の地である釜石では大きな歴史背景である「鉄」からとった名前。ただ飲料としてコーヒーを提供するだけでなく、地域を発信するものや盛り上げるものでありたい。

 

釜石では今年、ラグビーW杯が開催される。海外からも多くの人が訪れるこの機会に、世界共通の飲み物のコーヒーが釜石のことを伝える共通言語になるといいと思っている。

 

この3本柱の仮説をもとに、日々、挑戦中。次回は、挑戦している取り組みを詳しく紹介していきます。