「自分を愛するための音声メディア」をご紹介する本企画。今回は、女性2人組のPodcast番組を2つ紹介したい。

1つは29歳の一般OLのふたりがスタバで話しているような会話を盗み聞きする「ゆとりっ娘たちのたわごと」。通称「ゆとたわ」。2つ目はTBSラジオ「生活は踊る」のパーソナリティとしても有名なジェーン・スーさんとアナウンサー堀井美香さんの「over the sun(おばさん)」という番組だ。

どちらも内容としては、仲のいい友人同士のとってもゆるいもの。しかし、時に確信をつくような言葉がポロッと出るものだから、ついつい聞いてしまう。そして、もうすぐ30歳を迎えるにあたって結婚や仕事に悩む「ゆとたわ」世代のモヤモヤを「over the sun」のアラフィフのふたりが回収してくれているようにも感じている。年齢や背景はまったく違うのだが、どこかこの2つの番組は不思議とリンクしているようにも思えるのだ。

今回は、私自身も抱えている20代後半のモヤモヤをテーマにお届けしたい。「このままでいいのかな」と悩む夜に、ピッタリと寄り添うパーソナリティの言葉たちと共に。

佐藤伶
1995年神奈川生まれ。フリーのライター・編集者。RIDE MEDIA&DESIGNにてWEBマガジンの編集を経験した後、「どうせ働くなら人の生きづらさを溶かすものがいい」と一念発起しフリーランスへ。現在は社会課題に特化したPR会社morning after cutting my hairに所属しながら、物書き・編集・PRを行う。

人生の4分の1を過ぎたころの“幸福の低迷期”

皆さんは「クォーターライフ・クライシス」という言葉を知っているだろうか。「クォーターライフ・クライシス」とは、人生の4分の1が過ぎるころ、つまり20代後半〜30代前半あたりに訪れる“幸福の低迷期”のことを指す。

抜け出せたかどうかはわからないが、つい最近まで私もこの“幸福の低迷期”の渦中にいた。新卒の会社をたったの半年で退職し、次の会社で3年を迎えたころ。自分にはたくさんの可能性があって、どんな未来も描けると信じていた、いわゆる“新人”ではなくなり、なんとなく自分の限界や立ち位置みたいなものが見えてきた。

そして私はつい先日、会社を辞めてフリーランスとして独立することとなった。

何か別のことに挑戦していきたいという気持ちもあるが、どちらかといえば「私には組織は向いていない」という、諦めの気持ちが大きかった。大学を卒業してからずっと同じ会社に勤めている友人も多いのに、私はすでに2回も場所を変えている。移動民のようにしか生きられない自分に、同じ場所に長く腰を据えて積み重ねていくことができない自分に、コンプレックスはついて回る。

それは後悔とはまた違った感覚で、「自分はこういう風にしか生きられないんだ」と、諦めのようなものであり、抱いていた理想とかけ離れた現実の自分を受け入れるしかない瞬間だった。

かつての友人と別れる瞬間

この理想と現実のギャップに苦しむ時期を「ゆとたわ」のふたりは“踊り場”と表現する。20代後半、自分の限界が見えてしまったなかで次の一手をどう打つべきか、多くの人が悩む時期なのかもしれない。

そして私がそうであったように、このモヤモヤは同世代の友人からも大きく影響を受けるもの。20代後半〜30代前半は、ライフステージの転換期でもある。転職・結婚・出産・海外留学など将来に無限の可能性を感じていた10代〜20代前半を終えて、それぞれの道を選んでいく。かつて同じスタートラインにいた友人たちが一気にバラけてしまう時期だ。

「ゆとたわ」の二人はこんなふうな時期だと語る。

「結婚や転勤、子育てとか、仲良くしていた子たちがいろんな選択でバラバラになるときだよね。『これからも変わらないよ』って言ってくれたとしても、なんとなく属するコミュニティが変わってしまったような気がして、もう気軽には誘えなくなるというか。そういう寂しさによってクォーターライフクライシスが加速しちゃったりするんだよね」

「20代後半は今までの人生を見つめ直して、何か行動を起こしたりする時期なのかもね。行動を変えないにしても、一回自分の気持ちを整理するみたいなね。社会人になっていろんな生き方をしている大人に出会うと、自分がこれまで敷かれたレールの上を走ってきたことに気づくからさ。本当にこれでいいのかなって不安になるよ」

何か選択をする度に、本当にこれでいいのかと不安がついてまわる。私も大学時代の友人とはすっかり距離をとってしまったのは、しっかりと一つの会社に腰を据えて働いている友人を見ると、今の私はあまりにもふわふわしていて、コンプレックスが強化されてしまう気がするから。

何か棘のあることを言われたわけでもないのに、自ら扉を閉ざしてしまう。昔は大好きだった友人とそんな風にして会わなくなってしまうことを経験してきた人は多いのではないだろうか。

いつか訪れる再会のために

それぞれが人生の道を別れていく年頃。しかし、その寂しさに「ゆとたわ」のふたりは優しく希望を与えてくれる。

「すごい寂しいけどさ、還暦とかになったときにもう一回集まれたらいいよね。この半生でみんな本当に多種多様な人生を歩んでいくわけじゃん。でも、その子の性格がつくられた学生時代は知っていて、その子のベース自体はわかっている。その子そのものは変わらなくても、得た経験によってどんな風になっていったのか、笑って話せたらすごく面白そう」

似たような属性の人と集まるのもいい。しかし、かつて同じ場所にいた子が自分とはまったく別の人生を歩んでもう一度集合するとき、どんな物語を聞かせてくれるだろうか。一旦離れてしまったけれど、お互いの人生でたくさんのことを乗り越えたその先で、かけがえのない再会が待っているかもしれない。

そう考えると、私たちが直面する“踊り場”も、今のお別れも、いつか訪れる再会に向けた話のネタとして育んでおくのも悪くない。長いスパンで人生を捉えたとき、気持ちがとても楽になるのを感じた。

歩んできた互いの人生を祝福して

そして、「ゆとたわ」のふたりが言うように、一度道を別れた人たちが再び集まっている場所だと私が感じているのが「over the sun」という番組だ。20代後半の頃、転職を繰り返しながらバリバリとキャリアアップをしていったジェーン・スーさんと、その頃は結婚して子育てに専念するために仕事を離れていた堀井さん。

当時は、お互い仲良くなれるわけがない、むしろ自分とは違う世界線で生きている人という見方をしていたというふたり。しかし今は、互いが歩んできたまったく異なる人生を存分に面白がる姿がとても印象深い。

結婚しようが、離婚しようが、子どもがいようがいなかろうが、おばさんになったら辿り着く場所は皆同じ。一周も二周も何周も回ると、これまでのプライドがすぽっと抜けて素直に再会できるというのだ。

友人の中で自分だけが独身になってしまい、孤独感を感じるという33歳女性の相談にジェーン・スーさんはこう答える。

「我々は、鮭なんですよ。元は同じ川にいるんですけど、一旦大海に出るんです。で、何十年後にまた戻ってくる。一度バラバラになるけど、なんだかんだ最後には同じ川に戻ってくるんです。同窓会も花盛りになるのは60過ぎくらいだよね。20代後半くらいに別れが来て、60歳くらいで川に戻ってくるんだよ」

「周りはライフステージが変わっているのに、自分だけ変わってないような感覚に囚われている時期は私にもあって。でも周りからすると、実は自分もすごい変わってるんだよね。だから、今のモヤモヤは笑い飛ばす。どんな人生を歩もうが最後は一緒なんだから」

トークの中で何度も何度も自分たちのことを「おばさん」と呼ぶのだが、私にはこの「おばさん」という言葉がとてもかっこいいものに聞こえる。20代後半の頃に一度解散して、それぞれの道を存分に戦った上で、帰ってきた人たちを象徴しているような。

もちろん「おばさん」になったからといって、すべてが楽になるわけではない。しかし、リスナーも含め、あらゆる人生を祝福しあう姿は、自分の人生を面白がる視点を与えてくれる。

私は決してこの低迷期を抜け出せたとは思っていない。この先も、きっと自分と誰かを比べて不安に襲われることもあるだろう。しかし、どんな風に生きたって、辿り着く場所はみんな同じであるのなら、自分の人生がどんなものになろうが肯定できるような気がする。いつか笑って話せるその日まで、自分だけの物語を育んでいきたい。

■紹介した番組
ゆとりっ娘たちのたわごと
OVER THE SUN