「共感すると負け組」空想委員会という3人組のロックバンドは、かつてこう呼ばれていました。

メインソングライター三浦隆一さん(ヴォーカル&ギター)の描く世界観は、わかりやすく言うと「非リア充の代表格」。モテない男子の心境を鋭く突いた歌詞が特徴になっていましたが、2014年にメジャーデビューし、いつの頃からかその共感度はどんどん拡大していきました。

その三浦さを支える佐々木直也さん(ギター)と岡田典之さん(ベース)が、札幌でのライブ前日に空想委員会の“変化”とその裏にある出来事について語ってくれました。

橋場 了吾
1975年、北海道札幌市生まれ。 2008年、株式会社アールアンドアールを設立。音楽・観光を中心にさまざまなインタビュー取材・ライティングを手掛ける。 音楽情報WEBマガジン「REAL MUSIC NAKED」編集長、アコースティック音楽イベント「REAL MUSIC VILLAGE」主宰。

アジカンのライブに胸を打たれて

‐初めて三浦さんがいないインタビューとなります。今の体制になってからメジャーデビューを経て現在まで、どんなことがありましたか?

佐々木:一番変化があったのは『GPS』(2015年7月リリースのミニアルバム)を出したときですかね。この作品を出す前までは、三浦が自分のことを歌うというのがメインだったんですよね。

岡田:自分のモヤモヤを吐き出すための音楽と表現していましたね。

佐々木:ほかの人は関係ないというか。そんなときに、フェスによく出させてもらっていてアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のライブを見たときに『今の俺じゃだめだ』と感じたそうなんです。

‐お、それは?

佐々木:もっとみんなを引っ張っていけるようなフロントマンにならないとダメだと、胸を打たれたみたいです。そこからですね、歌詞に変化が出てきたのは。

‐メジャーデビュー時よりも、デビュー後に変化があったんですね。

 佐々木:メジャーに行くということはいろいろな責任もあるんですけど、楽曲に関してはむしろ変えることなく今までと一緒のほうがいいんじゃないかという気持ちが大きかったので、そこまで大きな変化はなかったと思いますね。

‐3人の関係性の変化はどうですか?

岡田:ライブに関しては、各々がより自由になりましたね。三浦は、昔は堅かったんですよ(笑)。

本当の自分を出せていない感は凄く感じていました。『GPS』以降は自分がまず楽しむ、好きなようにやるという姿勢が見え始めてきましたね。

最近は最初にファンとハイタッチをしたり自由にやっているので、横にいる佐々木・岡田もより自由になれますね。

佐々木:フロントマンらしさが、昔と比較すると違いますよね。

岡田:三浦は多趣味で、音楽に関しても今はまっているものを取り入れていくことでどんどん変化していくタイプのミュージシャンだと思います。

‐型通りというよりは変化を好むタイプですね。そこに佐々木さんと岡田さんのエッセンスが加わると。

 岡田:僕らも曲を作るんですが、三浦の作る曲とは全然違うんですよ。

でも、三浦はそれを受け入れてくれるので、いろいろなものを取り入れて空想委員会の音楽になっているんだと思いますね。

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『色恋沙汰の音沙汰』はメンバーの性格がモロに出た新譜

‐12月21日に新しいEP『色恋沙汰の音沙汰』がリリースになります。新曲は3曲、作詞は3曲とも三浦さんですが作曲者がバラバラですね。

佐々木:リリースが8か月空いたので、曲作りの期間が結構あったんですよね。その時間に、インプットしながら曲作りをしていました。

そしてCDリリースの日程が決まったときに、どの曲を入れようかと厳選していったところ、メンバー各々が作った曲が1曲ずつ入ることになりました。

‐それは偶然?

岡田:空想委員会のメンバーは性格が全然違うんですが、その性格の違いがモロに出たという感じですね。各々の色が出たからこそ、自然にバランスが取れたんだと思います。

佐々木:そうですね、バランスはそんなに考えてなかったんですよ。

岡田:チョイスしていったらバランスがうまく取れたと。

‐1曲目の『色恋狂詩曲』は三浦さんの曲ですが、いい意味で滅茶苦茶ですね(笑)。

佐々木:三浦がアコースティックバージョンでデモを作った段階で、良いメロディを持っているなと思ったんですが、普通に作っていったら「ただの良い曲」になってしまうなと感じたんです。それでは面白くないなと思って、最初に思いついたのがテンポを変えることでした。

これまで転調はよくやっていたので、転調以外で雰囲気を変えるということでテンポチェンジという縛りを設けてアレンジしていきました。

‐それで、イントロとAメロのテンポチェンジ、リズムパターンが全然違うんですね。

佐々木:これまでテンポチェンジをしたことがなかったので、最初全然うまくいかなくて。アレンジには珍しく1か月ほどかかりました。最終的にはいいところに落とし込めたので、完成してよかったなと思います。

岡田:この曲は…演奏していて難しいですよね、ぶっちゃけ(笑)。自分たちの技術の向上も必要だなと感じた曲です。

‐2曲目の『ロマンス・トランス』は佐々木さんの作曲ですが、三浦さんのヴォーカルにエフェクトがかかっています。

佐々木:『空想ディスコ』という曲があるんですが、ヴァージョン2がそろそろほしいなと。でも似たような感じで作るのは音楽家としてありえないと思って、わかりやすい構成にこれまで入れたことのないEDMの要素を入れてみました。

‐この曲はディスコというよりクラブですよね(笑)。作曲者がギタリストだけあってギターアレンジが凝ってます。
 

佐々木:そうなんです、そっちに寄せました(笑)。この曲のギターは、実はすごい簡単なんです。

それでちょっとひねったギターフレーズを入れて、そのサウンドに引っ張られて歌詞もタイトルもすぐ決まって「パーリーパーリー」って歌ってくれています(笑)。

‐3曲目の『見返り美人』は、3曲中一番落ち着いた感じの楽曲ですね。

岡田:性格が出てますね(笑)。僕の好きな曲のタイプは、聴いていて景色が浮かぶものなんです。そういう曲を作ろうとしたときに、ノスタルジーというテーマ…何かを見て懐かしい気分になるような曲にしたかったんですよね。

それでフルートを取り入れたりして、ノスタルジーを出すようなアレンジにしました。

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(写真:2015年10月のワンマンライブより)

 

「三浦隆一の声が乗れば空想委員会の楽曲になる」という自信

‐ここまで違う楽曲だと、お互いがどのように消化していくのかが気になるのですが。

佐々木:大前提にあるのは、三浦が歌えば全部空想委員会になるのはわかっているので、自由に作ってみて細かい調整をして最終形にするという感じですね。

『ロマンス・トランス』はイントロだけだと空想委員会だとは思わないですよ。でも三浦が歌うと、空想委員会の楽曲になるんです。

‐『色恋沙汰の音沙汰』は、今後の空想委員会がますます楽しみになった1枚です。

佐々木:空想委員会を長く続けてきましたが、まだまだ僕らのことを知らない方も多いと思うので、まずは音楽を聴いていただいてライブに遊びに来てほしいですね。

どんな状況でも楽しませる自信がありますので、これからもよろしくお願いします。

岡田:北海道のようになかなか来られない場所では、来たタイミングでどれだけ爪痕を残すかが大切なので、1回1回凄い気合を入れてライブをしています。

空想委員会の名前をどんどん広めていきたいので、僕らの音楽を聴いてもらえたら嬉しいです。

 


【取材を終えて】

何かが変化するときには、必ずきっかけがあります。

 

空想委員会の場合は、先輩バンドのライブをみたときに感じた「このままではいけない」という危機感でした。自分のことから、皆のことへ。歌詞のテーマが変化したことで、かつては「共感すると負け組」と名乗っていたバンドは、より幅広い層への共感を得るバンドへと変化していきました。

 

今回はその変化について、フロントの中心にいる三浦さんではなくその脇を支える佐々木さん・岡田さんに話を聴くことができました。そのような話を自然にできるのも、バンドとしての信頼感があるからこそでしょう。

 

かくして8か月ぶりにリリースされる新譜には、メンバーそれぞれが作曲した楽曲を収録。「三浦さんの声が乗れば空想委員会」という自信を確立したバンドが、更なる大きなステージに近づいていきます。

 

【ライター・橋場了吾】

北海道札幌市出身・在住。同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。 北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。