「人生ちょっとハミダシちゃった人から学ぶ」がコンセプトのPodcast/ラジオ番組「ハミダシミッケ」。ゲストと一緒に、世の中に対する違和感やモヤモヤを「こういうのってダルいときない?」という視点で切り取り、そのダルさへの処方箋を考える番組だ。この連載では私が掘り下げたい回をピックアップし、企画の裏側や、収録後に改めて考えたことなど、ざっくばらんにお伝えしていく。

「『誰と、どこで、何をする』をもっと自由に」。今回のゲストは、そんな社会を目指してプロジェクトシェアプラットフォーム「TEAMKIT」を運営している小谷さん。プロジェクト単位で働くフリーランスをサポートする小谷さんと「フリーランスってダルいときない?」をテーマに取り上げた。

「フリーランス」をテーマに話し始めたけれど、結果的には「本当に自分がしたい働き方」について考えることに。会社員、フリーランス、これからフリーランスになりたい人。立場に関係なく「働く個人」にとって大切なことを学んだので、シェアしたいと思う。

橋 香代子
1988年東京生まれ東京育ち。ウェルビーイングをテーマに夫婦で世界一周中のフリーランス。2018年8月より株式会社MIKKEで「ハミダシミッケ」のプロデュースに携わる。生きづらさを軽くする処方箋のような文章を書きたいなと思っています。

働き始めたらとりあえず3年はがんばった方がいいのか。
いや、会社員を続けるほうがリスクだよ。
フリーランスになったら自由になれるの?
いや、世の中の「フリーになれ」なんて言葉に惑わされちゃいけない!
会社員として好きなことをやるのが一番お得な働き方だよ。

 

いろんな人が、いろんなことを言う。インターネットには「持家 vs 賃貸」の特集と同じくらい、「会社員 vs フリーランス」の二項対立を煽る情報が溢れている。フリーランスのほうが給与は高くなるよ、いや、いろいろ考慮したらフリーランスになるなら会社員時代の三倍稼いでやっとトントンだよ。福利厚生が、社会保障が、税金が…。

 

私はそういった言説を見るたびにMPを削られてしまう。会社員であってもフリーランスであっても、なんだか「あれ、私の働き方って間違ってる…?」という気分にさせられるのだ。働き方の選択肢が増えてきたのはいいことのはずなのに、どうして「どちらがいいか」なんてマウントの取り合いになってしまうのか。なんだか本質を見失っていないだろうか?

 

働き方は、あくまで手段のはずなのに…

「何がしたいとか、どんな生活がしたいとか。それが実現できるんだったら、本当は会社員でもフリーランスでもどちらでもいいはずなんです。働き方はあくまで手段なのに、そこを議論することに違和感を感じる」(小谷さん)

 

そう語るのはTEAMKITの小谷さん。どちらかが勝ち組で、どちらかが負け組なんてことは絶対にない。「働き方の選択」は「より良い人生を送る」という目的のための手段であって、それ自体は目的ではないはずだ。

 

自分にとって「良い人生」とはどんな人生だろう?
何がしたくて、どうありたいんだろう?
どこで、誰と一緒にいたいんだろう?

 

人生のカスタマイズ性が増してしまった今の時代だからこそ、自分の軸になるような根本的な問いに答え続けないと、いつのまにか目的と手段が入れ替わってしまう。そして、それが揺らぐと、他人の声に敏感になってしまうのかもしれない。自分が選んだ働き方なら、会社員でもフリーランスでも、どんな働き方でも本当は全部正解なのだ。

 

とはいえ。

 

とはいえ「自分にとって良い人生とは」を考え、問いかけ、答え続けるなんて、なかなか余裕ないよ。というのが正直なところだと思う。

 

白状すると、私は「東京 30代 年収 中央値」でググったことが何度もある。だってすごく不安だった。気になってしまう。私は大丈夫かな?ちゃんとやれてるかな?って。

 

でも、そんなふうに「世の中はどうか」と気にすること自体、自分の軸ではなくて他人の軸で考えてしまっている証拠だ。その方が、人生という壮大なものについて頭を悩ませたり、自分の頭を使わなくて済むから。楽チン。

 

新卒ホームレスから学んだ「理想の人生のサイズ感」

考えることを放棄して、他人軸で考えてしまっていた昔の私に伝えたいエピソードがある。たくみくんの友達、新卒ホームレスの翔ちゃんの話だ。

 

「僕には最強のフリーランスの友達がいて、彼は新卒でホームレスになったの。誰かのお手伝いをする代わりにご飯やお風呂を提供してもらう。そんな生き方をしているホームレスがいて」(たくみくん)

 

医療系の大学を出て、資格を持っているにも関わらず「自由な生き方を試してみたい」という理由で、彼はホームレスの生き方を選んだのだという。

 

「月の生活費は5,500円で、国民健康保険とスマホ代とブログのサーバー代だけ(※1)」(たくみくん)

 

生活費が安すぎてビックリしてしまう。一般的な社会人とかけ離れすぎていて、一見何の参考にもならなさそうだ。でも翔ちゃんのすごいところは、生活費が安いことではない。

 

「翔ちゃんは、自分が何を欲しいか、いくらあれば生きられるか、全部自分でわかってるんだよね」(たくみくん)

 

私は「東京 30代 年収 中央値」でググったりしたくせに「自分がいくらあれば満足できるのか」は、そこまで真剣に考えたことがなかった。東京の30代の年収の中央値は、自分の理想のライフスタイルには、高すぎたり低すぎたりするかもしれない。いくら稼いで、何があれば満足できるのか。その基準は、本当は自分の中にしかないのに。

 

「もちろん、結婚して子どもがいる人が5,500円で生活するわけにはいかないかもしれない。でも「自分にとって一番いいのは何だろう」ってことを、お金も含めて、細かく把握するのは大事。その上で手段としての働き方は、本当にいろいろな方法があるから」(小谷さん)

 

「自分にとって良い人生とは何か?」という大きな問いに答えるのは難しくても「自分の理想のライフスタイルを生きるためには、いくら必要か?」だったら、もう少しイメージしやすい。そうすると、もっと細かい自分の人生の要件も見えてくるかもしれない。

 

「理想の人生のサイズ感」を突き詰めて考えること。サイズが合ってない洋服を着たらかっこ悪いのと同じように、ライフスタイルにも、私に一番似合う、私のサイズ感があるはず。翔ちゃんのエピソードは、そんなことを教えてくれた気がする。

 

誰と、どこで、何をするか

「理想の人生のサイズ感」がわかったら、次に必要なことは何だろう?

 

「自分の人生の経営者は、自分。「誰と、どこで、何をするか」っていう構築力が必要なんだと思う。その手段は会社員でもいいし、フリーランスでもいい。ただ大事なのは、持続可能であるっていうマインドセットなんだよね」(小谷さん)

 

小谷さんが言う「持続可能」とは、1つに依存しないこと、そして、1人でがんばらないことだと思う。

 

例えば、収入源をひとつに絞らない。会社員として働く、リモートワークが可能な会社で働く、単発で受託の仕事を請ける、レべニューシェアのプロジェクトに参加する、月額固定の常駐業務、年間契約の仕事…。多様な働き方が認められてきた今の時代、一言で「働く」と言っても本当にたくさんの方法がある。

 

そもそも「会社員か、フリーランスか」という考え方は大雑把すぎたのだ。どれかひとつの働き方を選ぶのではなく、理想のライフスタイルを持続可能な形で実現するために、できることを組み合わせて「自分だけの働き方」を考えてみてもいい。

 

そして、「自分だけの働き方」をつくる鍵となるのが、「仲間」の存在だ。

 

「人と共有するのも大事だと思う。自分がやりたいこと、自分が実現したいことを共有したら、もっといろんな方法が見つかるかも。会社員やフリーランスっていう切り口で集まるんじゃなくて、「こういう生活がしたい」っていう切り口で集まれたらいいよね」(たくみくん)

 

例えば「無農薬の野菜を毎日たくさん食べる生活がしたい!」と考えている人たちが集まったら、お金で野菜を買う以外の手段が思いつくかもしれない。農家のプロモーションや二次加工品の生産を手伝うプロジェクトを立ち上げて、そのリターンとして野菜をもらうとか。

 

他にも、「旅をしながら暮らしたい!」と考えている人たちが集まったら、地域活性化プロジェクトを立ち上げて、そのリターンとして滞在費を無料にしてもらうとか。目的を分かち合える仲間がいれば、その達成手段は本当に多種多様であることに気づく。会社員、フリーランス、どんな立場でも「誰と、どこで、何をするか」をもっと自由に考えてもいいのだ。

これからの働き方が不安な人への処方箋

会社員やフリーランス、働き方はあくまで人生をよりよく生きるための手段。まずは自分が誰と、どこで、何をしたいのか、そのために毎月いくらお金があったら満足できるのか、自分の人生のサイズ感を知りましょう。実現したいライフスタイルがわかったら、それを仲間に共有してみましょう。そうすれば、実現のための手段が思わぬ形で見えてくるかもしれません。

 

ちなみに私は、日本の寒い時期は2ヶ月くらい海外の好きな場所で過ごしたい。住まいも食べ物も洋服も、できるだけエシカルでエコフレンドリーな物を選びたい。人の生きづらさを減らす、当たり前以外の選択肢を当たり前にする、そんなふうに社会に貢献できる仕事を、生活の一部のようにして働きたい。コラムやエッセイをもっと書きたい。あと、子供も欲しい。です。もっと細かく書こうと思えばいくらでも書けちゃうのだけれど、このあたりで止めておきます。

 

あなたが実現したいライフスタイルは、どんなものですか?その願いは、誰にも邪魔されなくていい、あなただけの正解だと、私は思います。

 

今回の記事の内容が収録されたPodcast

ハミダシミッケ公式サイト:http://hamidashimikke.com/

MIKKEとは?:http://mikke.co.jp/

イラストレーション:あさぬー

※1 取材当時の状況