「人生ちょっとハミダシちゃった人から学ぶ」がコンセプトのPodcast/ラジオ番組「ハミダシミッケ」。ゲストと一緒に、世の中に対する違和感やモヤモヤを「こういうのってダルいときない?」という視点で切り取り、そのダルさへの処方箋を考える番組だ。この連載では私が掘り下げたい回をピックアップし、企画の裏側や、収録後に改めて考えたことなど、ざっくばらんにお伝えしていく。

今回のテーマは、お金。

やりたいことをやるにも、欲しいものを得るにも、ご飯を食べるにも、お金は必要だ。やりたいことを始められない言い訳の上位に、いつもランクインしてくるのは「お金がない」だったりする。

ところが最近「信用経済」「価値経済」なんて言葉をよく聞くようになった。お金よりも信用や信頼が大事で、お金は二の次なんだとか。それって本当なの…?一体どういうこと…?

本当にお金が一番じゃない経済の形があるのだとしたら、そこにお金から自由になる秘密が隠されているような気がする。

ということで、今回はお金を介さない価値交換を得意とするたくみくん、そしてTETOTETO Inc.代表の井上豪希さんと「お金ってダルいときない?」について考えてみた。

kayoko hashi
1988年東京生まれ東京育ち。ウェルビーイングをテーマに夫婦で世界一周中のフリーランス。2018年8月より株式会社MIKKEで「ハミダシミッケ」のプロデュースに携わる。生きづらさを軽くする処方箋のような文章を書きたいなと思っています。

「なんにでもお金がかかる」はウソ?

「家賃ってさ、必ず必要なものだってみんな思ってるじゃん。でも僕はChatbaseの家賃はほとんどかからない形で運営できてるんだよね」(たくみくん)

Chataseとは、MIKKEが運営するクリエイター向けのコワーキングスペースのことだ。場所は東京の末広町。テナント料も相当な価格になると推察されるが、利用者からお金を取らずに、ほぼ無料で運営できているという。

なぜか?

その理由はChatbaseをホテルの一階に作ったことにある。ホテルでは24時間フロント業務をする人が必要だ。実際には部屋数が少なくチェックイン業務がほとんど発生しなくても、常に人を置かなければならないのは、ホテル側にとっては大変な負担。ところが、それが24時間365日出入りできるオフィスを作りたかったMIKKEとうまく合致した。フロント業務を請け負う代わりにテナント料を相殺し、無料でスペースを運営できるようにしたのだった。

相手の欲しいものと自分が提供できるものを交換できたら、お金は必要ない。しかし、Chataseの例のように双方でそれらをすり合わせ、交換にまでこぎつけるのはなかなか大変だ。

そこで登場するのが、お金である。

偉大なるお金の発明と、お金によって失われたもの

お金とは「相手の欲しいものと自分が提供できるものを推し量る手間」を省ける便利ツールだと言える。

例えばりんごを3つ持っていたとして、誰が何と交換してくれるだろう?「りんご」という決まったものの交換相手を探すのは大変だ。でも500円を持っていれば、500円分の何かといつでも誰とでも交換できる。500円の価値の尺度はみんなが知っているので、どこへ行っても大丈夫。交換相手が誰であっても揉めることもない。しかもりんごは腐るけど500円は腐らない。

お金ってすごい!

そういうわけで、私たちは「いつでも、どこでも、誰とでも、なんにでも交換できる紙 = お金」をせっせと集めるわけだ。

しかし、お金のある世の中に慣れすぎてしまった私たちは、肝心の「いつ、どこで、誰と、何をしたいか」を忘れたまま、お金だけを集めることに必死になってはいないだろうか?お金の発明によって「自分は何が欲しいのか。自分が持っている価値は何か。それは誰に与えれば喜ばれるのか」を考えることが少なくなり、価値を推し量るスキルが退化してしまっているのかもしれない。

お金の先に自分が何を得たいのか。お金の前に自分は何が提供できるのか。それさえハッキリしていれば、お金以外の方法でやりたいことを実現できる可能性がある。

価値交換の方程式はいっぱいある

「僕は、仕事の対価としてお金を貰わないこともある。お金に縛られる必要はない。1回みんなもやってみたほうがいいよ。お金じゃない結びつき方をしたときに、お金よりもっと大事な結びつき方ができるんだよ」(豪希さん)

そう語る井上豪希さんは、ニートから一転、TETOTETO Inc.を起業。季節の移ろいと丁寧な暮らしを感じることができる招待制のホームパーティ「てとてと食堂」をはじめ、食にまつわるブランディングを主軸にさまざまな事業を手がける多彩な人だ。

仕事の対価としてお金を貰わないとは、一体どういうことだろうか?

「例えば、タコ屋さんがめちゃめちゃうまいものを作っているのに、誰も彼らのことを知らない。後継者も不足している。それで僕らがブランディングに入ることになったんだけど、そんなにお金払えないですと言われて。じゃあ我々はタコ食べ放題でいくらでもやります!っていう話をして、本当にそうしてる」(豪希さん)

とはいっても、報酬がタコでプロジェクトは回るのか?

「このブランディングプロジェクトに集まってくれている人は、みんな同じ価値観で。このタコだったら!とか、俺タコ好きだから!とか、タコが好きなクリエイターしか集まっていないんだよね。そしたら、タコ屋のブランディング自体がもう良い方向にしか行かないんだよね」(豪希さん)

これがそのタコ。めちゃめちゃ美味しそう。)

驚いた――タコを報酬にプロジェクトのメンバーを集められる人がいるとは。お金ではなく、価値観に人が集まり、小さな経済圏が生まれている。

お金を介さない価値交換としてよく聞くのは、「フォロワー数 = 信用」という信用経済。その人を信用する多くのフォロワーが、物を買ったり課金することによって、信用を換金できるという話だ。クラウドファンディングなども、有名だったり人気がある人にはお金が集まりやすかったりする。でもそれだと、多くの人を動かせない人には「お金を介さない生き方」は難しい。

 

たくみくんや豪希さんがすごいと私が思うのは、人気者だから信頼できるという信用経済の形ではなく、1対1の価値交換ができているところだ。仕事の報酬にタコを貰う、ホテルのフロント業務を請け負う代わりに家賃を負担してもらう、どちらも1対1の関係性だ。1対nの関係性だけでなく、1対1の関係性でだって、もちろん価値は交換できる。令和の時代のお金持ちは、単にお金を持っている人ではなく、こういう丁寧な信頼関係を自由自在に結んでいける人を指すのかもしれない。

「僕は『Giveから始める経済圏』って呼んでるんですけどね」(豪希さん)

豪希さんもたくみくんも、常に相手に何をGiveできるかを考えているようだった。「楽しい!」「やりたい!」そんな「ワクワクした気持ち」を軸に据えて、自分ができることをとにかく相手に与えまくる。そうすると、自然と価値観の近い人が集まってきて、いつの間にかお互いに与え合う小さな経済圏ができているというのだ。

私たちはどうしても、自分が欲しいものばかりを考えてしまうけれど、ふたりのようにGiveから始めるにはどうしたらいいのだろうか?

与えるためには、まずは自分が満たされること

「僕の友達の山下歩くんが、世界最貧だけど幸せな島・カオハガン島に取材に行ったことがあるんだけど、そこでは自分の家で作ったごはんを近所の人に分けるらしくて。なぜなら冷蔵庫がないから保存しておけない。自分にはもういらないくらい溢れちゃってるから、あげるよっていう」(たくみくん)

どうやらシンプルな話で、人は余ったものなら簡単に人に渡すことができるらしい。しかし、お金は保存できてしまう。いくらあったとしてもなかなか「余っている」とは思えないのではないか。

「ポイントは『俺、今満たされてる』っていう実感。そういう人のほうが誰かに与えられる能力は高い。自分が何に幸せを感じて、どういう条件だったら満たされているのかって、まずは知る必要がある」(たくみくん)

前回の処方箋にも近いが、「自分にとってのミニマムの幸せ」を定義しておくといいのかもしれない。

「もし『ごはんが食べられるだけで幸せ』だったら、そのごはんは、まずくてもいいのか、美味しくないといけないのか?美味しいってどういう状態なのか?とか。自分にとって最低限必要な幸せの要素を分解して、そのために最低限必要なお金は一体いくらなのか?そこをきちんと満たせていれば、Giveする余裕が出る」(たくみくん)

「僕の場合は、ストレスにならない楽しい複業をいくつか持つことで、生活の固定収入を作ってる。生活のベースになる収入があれば、安心できるじゃん」(豪希さん)

安心できると、「楽しい!」「おもしろそう!」と思えることに自分からGiveできるようになる。そうすると次第に信頼関係が築かれ、結果的にお金がないとできないと思っていたことも、別の方法で始めることができるかもしれない。

ブランディングをする代わりに、タコが食べ放題になる。美容院のモデル写真を撮影する代わりに、髪を切ってもらう。旅先で撮影した写真を提供する代わりに、飛行機代をもらえる。実家で作りすぎた野菜をあげる代わりに、ごはんを作ってもらう。

それは一見、お金を払って価値交換をするよりも手間がかかって面倒かもしれない。しかしだからこそ、その価値観の方程式は誰にも真似することのできない、あなたと相手だけの間に成立するかけがえのないものだ。

そしてその関係性は決して、お金では買うことはできない。本当の豊かさとは、そういうことなんじゃないだろうか。

お金にとらわれないための処方箋

自分の望みを叶えたいとき、お金はひょっとすると必ずしも必要ではないかもしれません。ただし、お金以外の選択肢に気づき、選んでいくためには、まずは最低限自分が安心して生きるための土台作りが大切。自分が幸せでいるために必要なミニマムをしっかり把握する。足るを知る。そうすると、自然と誰かに与える余裕が出てきて、それが信頼につながり、結果的にお金以外の価値を誰かと交換しやすくなるかもしれません。そして、そんなつながりこそが、あなたの人生を豊かにしてくれるのではないでしょうか。

ちなみに私は、ずっと昔から本場タイでタイマッサージを勉強したいと思っていて、なんとか無料で勉強できないものかと考えて、夫を「習得したらマッサージしてあげるから」と説得して学校代を出してもらいました。私は無料で勉強できたし、彼は家に帰ったら専属マッサージ師がいるという、ウィンウィンな価値交換だったなあと思います。まずは身内や友達からこういった試みをしてみると、おもしろいかもしれません。


ハミダシミッケ公式サイト:http://hamidashimikke.com/

MIKKEとは?:http://mikke.co.jp/

イラストレーション:あさぬー