世の中に対する違和感やモヤモヤを「こういうのってダルいときない?」という視点で切り取り、そのダルさへの処方箋を考えるラジオ番組 / Podcast「ハミダシミッケ」。この連載では私が掘り下げたい過去の回をピックアップし、企画の裏側や、収録後に改めて考えたことなど、ざっくばらんにお伝えしていく。

2020年、最初に取り上げるテーマは「ひとつのことをやり続けるってダルいときない?」

年末年始の時間を使って、キャリアの棚卸しをしたり、将来の夢や今後の人生の方向性について思いを巡らせた人も多いと思う。
人生設計について考える時、最も悩ましい問題のひとつは「今やっていることを、このまま続けるべき?それとも、やめるべき?問題」だ。

「大学に通う意味が見出せない。でも、やっぱり卒業はした方がいいかな?」

「転職したい。けど、まだ3年も経ってないしなあ...。」

一度進み始めたレールから降りて方向転換をするとき、なんとなく感じるバツの悪さ。
何かを途中でやめるって、やっぱり悪いことなんだろうか?

今回は、Youtubeで14万人以上のファンを持つ映像クリエイターの山下歩くん(以下、歩くん)をゲストに迎え、人生の分岐点における選択の仕方について語り合った。

橋 かよこ
1988年東京生まれ東京育ち。ウェルビーイングをテーマに夫婦で世界一周中のフリーランス。2018年8月より株式会社MIKKEで「ハミダシミッケ」のプロデュースに携わる。生きづらさを軽くする処方箋のような文章を書きたいなと思っています。

続けるのか、やめるのか、その決断の決め手は

歩くんはミュージシャンを目指していたが、あるとき映像クリエイターへと転身。ひとつの「将来の夢」を目指し続けることが良しとされるなか、人生の途中で大きく方向転換した人だと言える。

ずっと続けてきたことをやめるとき、迷いはなかったのだろうか?

「やっぱり『続ける』って美学。それが世間の共通認識としてある。『始めたことは続けなきゃいけない』っていうのが無意識の中に刷り込まれてしまっているから、本心ではやめたいなと思ってもなんとなくモヤモヤするだけで「やめたいと思ってる自分」にすら気づけないんだよね。

だから、俺もミュージシャンの夢を追いかけるのをやめようって決断をするまでは、何がこんなに苦しいのかわからなかった。考えて、考えて、ようやく『俺、もう音楽コンテンツを作りたくないのかな?』って」(歩くん)

歩くんは、高校生の時から音楽を作るようになった。あるオーディションで最終選考まで残ったときに初めて、「ミュージシャン」という夢を職業として意識するようになったそう。

大学生にもなれば、社会に出て何を仕事にするのか、現実的に考えさせられる時期だ。ミュージシャンを志す者として「音楽で食べていけるようにならなければ」「有名にならなければ」というプレッシャーを感じつつ、Youtubeでカバーソング動画を配信しながら着実にファンを増やしていった。

転機が訪れたのは、カバー動画ではなくてオリジナルソングがバズったとき。(「田舎の歌」2020年1月現時点で600万回以上再生されている)

「当初からずっと目標にしてきたのが『カバー動画で知名度をあげて、オリジナル動画をたくさんの人に見てもらうこと』だった。それが達成できてしまって、燃え尽き症候群みたいになっちゃった」(歩くん)

 

愛か、恐れか

そのとき初めて、ひとつのことを続けるのか、それとも、やめるのかという選択が歩くんの前に現れた。高校生の頃からずっと志してきた音楽の道。しかも、Youtubeでは着実にファンも増えている。やめてしまっていいのか。

「そのとき、他の人が人生についてどんなこと言ってるのか調べてみて。一番素直に自分のなかに入ってきた言葉が、俳優のジム・キャリーの言葉だったんです」(歩くん)

それは、ジム・キャリーがマハリシ経営大学で行った卒業式スピーチだった。

「彼が言ったのは、あらゆる選択肢を一番下まで掘り下げていくと「愛か、恐れか」、このふたつの選択肢になるってこと。『そのとき、必ず愛の方を選んでくれ』っていう言葉を聞いて、自分の場合は『音楽をやめるか続けるか』の選択肢において、続けるほうが苦しいと思った。『有名にならないといけない』というプレッシャーは迫られるような『恐怖』で、音楽をやめて別の好きなことに没頭することが、もしかして『愛』なのかな?って」(歩くん)

歩くんは、そこでワクワクできることを選び、映像の方向へ進んだ。このときに一度「愛」を選択できてからは、それ以降の分かれ道でもすごく楽になったそうだ。

「いつでも『愛か、恐れか』って問いかけてる」(歩くん)

それを聞いていたタクミくんが「あー、わかる!俺もたぶん最初の選択があった!」と続けた。

 

蕁麻疹が出ちゃったから会社を辞めた

タクミくんは高校卒業後、地元である北海道で飲食店を起業。その後、お店を売却し、上京と共に大手企業の出資を受けてスタートアップの経営に携わった。しかし、軌道に乗ることができず会社を畳み、出資元の会社の社員として雇われることになった。その際、1ヶ月で会社を辞めてしまったのだという。

もともと自分に出資してくれた親会社。うまくいかなかったところを拾ってもらっているという状態で、辞めることに葛藤はなかったのだろうか。

「今振り返って、すごくラッキーだったと思うのは蕁麻疹が出たこと。会社に入社して初めて周りの人と自分を比べて、俺は何やってるんだろうって考えてた。すごく辛くて」(タクミくん)

高校を卒業してからずっと会社を経営する立場にあり、会社を生かすも殺すも自分次第だったタクミくんは、常に目の前のことに必死で他人と自分を比べる余裕もなかったらしい。会社員という立場になって初めて、放り込まれた社内にいくらでも優秀な人材が横並びにいる環境。そこで感じた劣等感や、これまで同じ場所にいると感じていた同世代の経営者仲間が先に行ってしまったような焦燥感に迫られた。

そんな苦しみのなかで、ある日、蕁麻疹が出たのだという。

「身体に症状が出たことで、このままだと気持ちが死んじゃうと気付けた。そのとき、周りに自分の話を聞いてくれる友達がいて『逃げていいんだ』って思えたのも、決断できた大きな理由だと思う」(タクミくん)

 

恐れから逃げて、愛を選ぶ

タクミくんは「逃げていい」と表現したけれど、それは歩くんと同様に「愛を選んだ」ということなんだと思う。一度その決断をしてからは、次の選択が楽になったとタクミくんも語る。

普通なら「逃げてしまった自分はダメだ」と自己嫌悪になってしまいそうなところを、「逃げることで、本当に大切にしたいことに目を向けよう」とポジティブに捉え直したタクミくん。その後、人生で三社目の株式会社MIKKEを起業した。

「MIKKEでずっと大切にしてるのは『逃げよう』ってこと。嫌だと思うことは絶対やらない。ビジネスを進めるために誰かが疲弊してる状態を作りたくない」(タクミくん)

実際、MIKKEはタクミくんや周りのみんなが心から「やってみたい」と思えることをうまく事業に組み込み、人を軸にした経営に取り組んできた。3度目の起業は「逃げてもいい」と思えたからこそ始まって、現在は「逃げよう」を合言葉に3年目を迎えようとしている。

嫌だと思うことからは逃げて、好きなことへの原動力へ変える。タクミくんにとっての「逃げる」は、けして「続けられないのは悪いこと」というネガティブなものではない。「自分にとって真に大切なことに本気で向き合う」過程で変化していくのは、ポジティブな「選択」なのだ。

 

ポジティブに逃げるために必要なこと

とはいえ、そんなふうに逃げるって難しい。冒頭の歩くんの話にもあった「続ける = 善」「やめる = 悪」 の構図が、誰の頭のなかにもある。

私たちはすぐに自己欺瞞に陥ってしまう。本当はもう続けたくないと思っている事でも「まだここで学べる何かがあるはず…」なんて無理やり言い聞かせながら、本当の気持ちに蓋をしてしまったり、逆に続けることができなかったときには「逃げてしまった」と自己嫌悪に苛まれることもある。

逃げること、途中で辞めることをむしろポジティブに捉え直し、自分の道を歩んでいるふたりから私たちが学べることは何だろう?

ひとつは「徹底的に自分に素直である」ということ。

とにかく、ふたりとも自分の心の声をすくい取るのがうまい。歩くんもタクミくんも「自分が本当はどうありたいのか」にとても敏感だ。この連載でも一貫して主張しているが、「自分の心の声を聞くこと」は人生の豊かさを決める上で本当に大切なことだと考えている。

今、目の前にある選択肢は愛か、恐れか。しっかりと自分の心に問い続けた先には、納得できる答えが待っているはず。

その上で「愛」を選ぶ勇気を持つには、自己開示できる人の存在がかかせないようだ。

タクミくんが「逃げていいんだ」と思えたのは、「素直な自分」をさらけ出せる友達の存在が大きかったそう。

「最初は、好き嫌いを素直に言えなくて、いろんな人にいい顔をしちゃうタイプだった。小さい頃から引越しが多かったのもあって、環境に適応するのが大事だったから…。
でも、MIKKEの共同創業者のダイキくんには本当に正直に、何でも話せる。素直な自分でいても大丈夫だ、と思える状態を作ってくれた感じ。何かが嫌だとか辛いと言ったとき、『あなたの言ってること、わかるよ。正しいよ』って言ってくれる人が、ちゃんといるってすごい大事だなって」(タクミくん)

「両親でさえ、そんなふうに言えないことが多いよね。『それは逃げてるよ』って言われちゃったりするからね」(歩くん)

たったひとりでもいい。血の繋がった家族でなくてもいい。そばにいる大切な人に、自分の素直な気持ちを話してみること。それを認めてもらえることが、本当に自分が求めている「愛」を選ぶ力に繋がるのかもしれない。

 

ひとつのことを続けられない罪悪感への処方箋

ひとつのことを続けることは確かに美学かもしれない。でも、続けることが「恐れ」に変わるくらいなら、やめてしまっても大丈夫。迷ったときには、自分がワクワクする方を選ぶ勇気を持って。苦しかったら一度逃げてみるのもアリ。

自分に素直になれない、選択に自信が持てない…そんなときは、ひとりでもいいから味方を作りましょう。まずは自分の側にいる人に心を開いてみたら、自分の本当の気持ちに気付けるかもしれません。

 

それでも、自分の違和感やモヤモヤ、友達にも誰にも言えないよ…という人は、ぜひハミダシミッケにメールをください。現在、毎週水曜日に収録しているラジオでは、あなたの「ダルいとき」を募集しています。自分に素直になる練習場として、ぜひ使ってみてくださいね。

 


ハミダシミッケ公式サイト:http://hamidashimikke.com/

MIKKEとは?:http://mikke.co.jp/

イラストレーション:あさぬー