肌に直接、塗布するファンデーション。化粧水。乳液。

化粧品は、自分の身体を美しく、健やかに保つために毎日使うものだ。にも関わらず、ドラックストアや百貨店の陳列棚に並ぶ化粧品を「機能だけに焦点を当て、コスパがいいものはどれか。」とにらめっこしている自分がいた。

どこで、誰が、どんな原料を使っているのかわからないものを、毎日肌に塗っている......。

あれ、これでいいんだっけ?

そんな気づきを与えてくれた人たちがいる。人を心身から美しくするだけでなく、地域を、社会を美しくする化粧品という思いを込めて、「社会派化粧品」と名づけられたジャンルのコスメを製造・販売している化粧品ブランドのつくり手たちだ。

2021年、70seedsでは全国各地の地域でつくられている「社会派化粧品のつくり手の想い」をインタビュー連載にしてお届けする。

その前に、そもそも社会派化粧品ってどんなものなの?という紹介をしておきたい。それと原点となった私の想い、社会派化粧品に出会い変化した自身の暮らしのことも。

大森愛
ヒト・モノ・コトを紡ぐプランニングディレクター。 「朗々と、しなやかに暮らす」をモットーにいろんな地域やプロジェクトにてお節介しています。

昨今、トレーサビリティ(「その製品がいつ、どこで、だれによって作られたのか」​を明らかにすべく、原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡できること)が謳われ生産地や原料を可視化する動きが活発になっている。生産者から直接購入できる場所も増えてきた。

もちろんスーパーやコンビニエンスストア、ネットストアなどで、いつでもどこでも欲しいものを欲しい分だけ手に入れられる生活は便利だ。けれど、旬の野菜や果物、魚を、生産者の顔を思い浮かべながらいただくときの気持ちは普段近場で買うそれとはやはり異なる。

 

つくり手の顔が見え、体温が感じられるものを選び暮らしに取り入れることに喜びを感じるのだ。

 

いつからか、なるべく知り合った生産者から食材を直接仕入れるようにしている。衣服に関しても同様だ。どこでつくられているものか、材料は環境にも自分にも心地よいものか、考えて選んでいる。それによって自分の心も身体も豊かになることを知っているからだ。

こと化粧品にいたってはどうだろうか。

 

人は肌を健やかに保つために、年齢性別問わず、化粧品を用いて日々スキンケアを行う。忘れがちではあるが、毎日肌に塗布するという意味では食事と同じくらい大切な行為だともいえる。

しかしそこにつくり手の体温を意識したことはなかった。

流れてくるコマーシャルや店頭の謳い文句に何の疑問も持たず、肌悩みに対して機能や価格で商品を選ぶ。スキンケアの時間に感情をのせることなく、日々のルーティーン作業のようになっていた。

食と同じように日々欠かせない行為であり、肌に直接塗布するにも関わらず、化粧品自体の原料や生産者に対して意識を向けていなかったのだ。

そんなとき出会ったのが、社会派化粧品だった。

 

「社会派化粧品」とは、全国各地でその土地ならではの地域資源を活用し、素材を厳選し、地域や社会をも健やかにする化粧品として、萩原健太郎氏の書籍『社会派化粧品』(2019, キラジェンヌ)に紹介されることで名づけられた化粧品ブランドたちの総称のこと。引用:https://www.socosu.com/

社会派化粧品は、ただ原材料にこだわり、つくり手の顔が見えるコスメではない。

「地域を未来に繋いでいくこと」をテーマに、地産の原材料を活用し、地域の課題に取り組みながら肌を健やかにする化粧品なのだ。描くビジョンやミッションは異なりつつも、それぞれ商品開発に取り組んでいる人たちが日本各地にいる。

面白いのは、どのエリアの人たちも「化粧品をつくることを最終の目的としていない」ことだ。あくまで地域の課題を地産の原材料を活用することを考える上で、結果として化粧品という一つの答えに辿り着いただけというから興味深い。

社会派化粧品に出会う前までの私は、肌に吹き出ものを見つけると「嫌だなぁ。効くコスメを探さなきゃ」と肌だけでなく心も揺らいでいた。でも今では「最近忙しかったらかな。週末は自分をいたわろう」と思えるようになった。

 

ただ毎日作業のように行っていたスキンケアの時間は、いつしか自分自身と向き合い対話する時間となった。肌だけでなく心も豊かになったのだ。

 

だからこそ、伝えたい。

マーケティングの観点からだけではなく、地域の良さを伝えるためには?という入り口から化粧品づくりに携わる人々がいることを。そして社会派化粧品をつくる人たちの考え方や思想を。

かつての私のように、ドラッグストアや百貨店で値段や機能だけを見て化粧品を選ぶことに違和感を覚えつつある人、コマーシャルで見て肌に良さそうだったからと表層の情報だけでコスメを選んでいる人へ。

 

少しずつでも自分をいたわる豊かさを手にとってみてほしい。地域や環境の課題に地産の原材料を活用した化粧品を通じて取り組もうとする人の想いに触れてほしい。そう思い、今回この連載をはじめるに至った。

 

70seedsは意思ある人と前へというワードを掲げ、次の70年に残したいヒト・モノ・コトを伝えている。肌を、地域を、社会を、そして心を美しく、健やかにする社会派化粧品を次の70年に残すためにこれから様々な地域で社会派化粧品に携わる人々を取材していこうと思う。