夏の訪れとともに北海道・浦幌町の海岸は、バラのやさしい香りが漂い、鮮やかな紅紫色に染まる。咲き誇るのは町の花『ハマナス』だ。人の手で摘まれたハマナスの花びらは、オーガニックコスメ『rosa rugosa(ロサ・ルゴサ)』の原料となり、町の未来を照らすシンボルとなっている。

「『ロサ・ルゴサ』のつくり手は、浦幌町の住民一人ひとりです。花を摘むのも、パッケージの絵を描くのも、地域で暮らす住民によるもの。自分たちの地域は自分たちでつくっていくんだ、という“私たち”の気持ちが込められています」

朗らかな笑顔で『ロサ・ルゴサ』や浦幌町について丁寧に説明してくれるのは株式会社ciokay(チオカイ)代表・森 健太さん。

もともと関西出身だった森さんは、大学卒業と同時に地域おこし協力隊として浦幌町に移住。『ロサ・ルゴサ』を消費者に届けるにあたり設立した会社の代表を、なんと新卒2年目で任された。

代表でありながらも、コスメ製品の開発・販売は「あくまで浦幌町の住民の手で育んできた」と語る森さん。

『ロサ・ルゴサ』には町の人々のどんな思いが託されているのだろうか。

貝津美里
人の想いを聴くのが大好物なライター。生き方/働き方をテーマに執筆します。出会う人に夢を聴きながら、世界一周の取材旅をするのが夢です。

町がなくなる。危機感から誕生した化粧品「ロサ・ルゴサ」

「12年前、町に唯一あった高校が廃校になりました。子どもたちは中学を卒業したら浦幌町を離れてしまうんです。町に活気がなくなるのを肌で感じているのは僕だけではないはず。やっぱり寂しいですよね」

人口減少、若者の流出により、このままでは町がなくなってしまうかもしれない。そんな危機感が十数年前からあったという浦幌町。なんとかしたいという住民の動きから生まれたのが、2008年より始まった地域を次の世代まで持続されることを目的とした取り組み『うらほろスタイル』だった。子どもたちに「また戻ってきたい、浦幌町で働きたい」と思ってもらうため、学校・地域が協働するプロジェクトだ。

「子どもたちは小学校・中学校の総合の時間を通じて、地域学習を行うんです。学校、行政、NPO、企業、団体、町民などが一体となって、子どもの想いを実現させる事業地域への愛着を育む事業を展開しています」

『ロサ・ルゴサ』が誕生したきっかけも、うらほろスタイルが原点だという。

「中学3年生の生徒が、町をより良くするアイデアとして『ハマナスを使って何かできないか』と提案してくれたんです。子どもの想いを形にするのが大人の責任!と、ハマナスを使って地域を象徴する商品を作るために、町全体をあげて動きはじめたのが、2015年のことでした」

住民一人ひとりの手でつくり上げる「過程」を大切に

まず手がけたのは、材料となるハマナスの栽培だった。2年間にわたり合計約300名の参加者により開催した植樹イベントを開催し、1ヘクタールの農園いっぱいに咲き誇る1400株のハマナスを栽培することに成功。ハマナスをつかった商品開発は、「浦幌町を盛り上げるためどんな商品があったらいいですか?」「どんな商品なら使いたいと思いますか?」と住民に丁寧にヒアリングをしながら進めたという。

いくつもの意見の中から、地元のお母さんたちから「ハマナスを使った化粧品」というアイデアがでて『ロサ・ルゴサ』の方針が決まった。

「できるだけ住民のみなさんに関わってもらいながら作りあげていきたいなと思うんです。行政や地域おこし協力隊の人が何かやっているなぁ、で終わらせてしまうのは違う。地域をつくるのは浦幌町に暮らす一人ひとりなので『ロサ・ルゴサ』は自分が関わった商品なんだとみんなが誇れるようにしたい。だから過程を大切ににしました」

地域を象徴する商品だからこそ、地元のお母さんたちの「本当に欲しい商品づくり」にこだわったという。

「子どもの肌にも安心して使えるものでありたいと、合成着色料、合成香料、鉱物油、パラベンなどは一切使用せず天然由来成分を原料としたオーガニックコスメにこだわりました。町の未来を次の世代につなげていくための商品なので、つくるからにはどなたでも安心して使ってもらえる化粧品でありたいと思ったんです」

地域住民を巻き込んだハマナスの商品開発は『ロサ・ルゴサ』のパッケージにも宿っている。

「浦幌町に住む親子でハマナスの写生大会を開催して、子どもが描いた絵をそのままパッケージデザインとして採用したんです」

森さんはパッケージのお披露目会をしたときの子どもの笑顔が今でも忘れられないと嬉しそうに話してくれた。

「ハンドクリームを描いてくれた男の子がふらっと来て『あー!これ僕が描いた絵だー!すごーい!』と、にっこり笑ってすごく喜んでくれて……。嬉しかったですね」

自分が描いた絵が、商品になって日本中の人の手に渡っている───。子どもたちにとって小さくても成功体験を積む場が提供できたこと、学びや経験になる機会をつくれたことに喜びを感じたという。

こうして誕生したのが、ぬくもりあるパッケージに包まれた化粧品『ロサ・ルゴサ』だ。現在は北海道だけでなく、関東や関西エリアでも販売しており、海外との直接取引もはじまっている。

「中学卒業を機に町を離れる子どもたちが、大人になって浦幌町に戻ってきたとき『こんな面白い仕事があるんだ!地元で働きたい!』と思える土壌を耕しておきたいです」

移住者ではなく、住民がアクションを起こす町

浦幌町を子どもたちがまた戻ってきたいと思える町にしたい。真剣な眼差しで町の将来を見つめる森さん。

そもそもなぜ、縁もゆかりもなかった浦幌町への移住を決め、町を盛り上げる一員になりたいと思ったのだろうか。移住を決めた当時、森さんの目に浦幌町はどのように映っていたのか聞いてみた。

「学生時代は、日本全国旅をしながらいろいろな地域を巡っていました。その中でも“おもしろい町”と言われる地域って、やっぱり移住者が目立っている印象を持ったんです。でも浦幌町は違いました。

人口減少や少子高齢化といった課題はあるけれど、どうしたら地域がより良くなるかを地元住民が真剣に考え、行動している。自分たちの地域を自分たちの手で育んでいくんだという浦幌町の人たちに惹かれたんですよね」

当時を振り返りながら森さんの目に映った浦幌町の魅力をしみじみと話してくれた。それでも、まずは会社へ就職するという選択肢もあったはずだ。なぜ、いきなり地域おこし協力隊という道を選んだんのだろうか。

「正直、正社員でも地域おこし協力隊でも、形態はなんでもよかったんです。どんな仕事をするか?どこで働くか?よりも、誰と働くかを大事にしました。今の時代、大手企業でも安泰と言い切るのは難しい。なら自分の手で生きていく力を身につける必要があると思いました。地域を自分たちでつくっていくんだ!という浦幌町のみなさんの考えに触れ、この人たちと働きたい!と純粋に思えたんですよね」

会社の代表を、やってみないか?

移住してからは地域おこし協力隊としてうらほろスタイルの運営に携わりはじめ、『ロサ・ルゴサ』の開発プロジェクトメンバーとして日々奮闘していた。そんな矢先───。

「会社の代表を、やってみないか?」

『ロサ・ルゴサ』を本格的に販売していくにあたり設立する会社の代表に、なってみないか?と、うらほろスタイル推進地域協議会の主要メンバーから声がかかったのだ。なんと、就職や経営の経験もなかった新卒2年目の年だった。

「驚きましたね(笑)。まさか、想像もしていませんでした。法人化の話が出たときも、1メンバーとして関わるのかなという気持ちでいましたから。

正直、とても悩みました。会社に就職したことのない自分にできるのか……。不安や緊張も、もちろんありました」

それでも彼が出した答えは、潔かった。

「一週間悩んで、やらせてください!と返事をしました。これ以上悩んでも仕方ないなと思ったんです。20代前半で会社の代表を務めるってなかなかできない経験。たとえ事業がうまくいかなかったとしても、30代・40代とこれからの人生においてすごく良い財産になる。まだいくらでもやり直せる。だったらやらない選択肢はないと、覚悟を決めました」

ロサ・ルゴサに託す“私たち”の願い

会社名は『ciokay(チオカイ)』。アイヌ語で“私たち”という意味だ。

「会社名も、住民のみなさんと一緒に決めました。会社の代表とはいえ、やっぱりみんなで創りあげていくんだという意識が強くあります。経営の知識も経験もない中で、日本全国・海を越えて海外の人にも『ロサ・ルゴサ』を届けられているのは、支えてくれている住民の方々のおかげです。誰かがやってくれる、ではなく“私たち”で創っていく。地域愛あふれる浦幌町が、やっぱり大好きですね」

森さんは、口角を上げニッコリと笑った。子どもたちが町に戻ってきたとき、存分にやりたいことに挑戦できる土壌を耕しておきたい。それが僕の使命です、と森さんは楽しそうに話してくれた。

浦幌町を象徴する花・ハマナスを使った化粧品ブランド『ロサ・ルゴサ』に託された願いは、住民一人ひとりの想いとともにこれからも未来へと引き継がれていく。

アイキャッチ:撮影:野澤一盛