岐阜県恵那市で“泊まれる古本屋”を目指してスタートさせた「庭文庫」。2018年4月28日、「良い庭の日」に古本屋として実店舗をオープンしてから、たくさんの方に応援してもらい前に進んできました。

「庭文庫」を営むわたしたちが、今考えていることや思っていることを言葉にしていくのが、この連載、「庭文庫からの手紙」です。

今回は、ウェブショップをリニューアルする上で考えたこと。

百瀬 実希
1990年沖縄生まれ。大阪市立大学法学部卒業後、イベント企画会社勤務。東京在住中、批評家 若松英輔氏に師事する。2016年3月、岐阜へIターン。恵那市地域おこし協力隊として、移住定住相談や空き家バンク運営などの業務を行う。2017年から出張古本屋庭文庫をスタート、翌年4月には実店舗開店。庭文庫の広報およびイベント担当。

ウェブショップの手間とお金

庭文庫として、ウェブショップを本格的にはじめたのは、つい最近のことだ。

正直なことを言うと、ずっと面倒くさかった。本の写真を撮り、ウェブにアップし、本の詳細を記し、送料を設定し、公開設定をする。買ってもらえたらOPP袋に入れ、プチプチ封筒か硬めの封筒に入れ、伝票をつくり発送する。

ちょっとだけお金の話をすると、新本の粗利は20%〜35%だ。そしてウェブショップの販売手数料は5%。仮に新本の粗利が25%だとして、販売手数料を引くと、わたしたちの手元に残るのは20%になる。つまりたとえば2000円の本が1冊売れると、わたしたちの手元には400円残ることになる。

400円、400円か……とずっと思っていた。もちろん古本であれば粗利はもっとあがる。ただし、わたしたちのお店だと、同じ古本が同じタイミングで数冊入ることは少ないので、毎回写真を撮り、詳細を記し、ウェブに公開する必要がある。その手間と、手元に残るお金のことを考えると、いつも二の足を踏んでいた。

しかし、コロナ禍によって、そうも言ってられない状況になった。すこしでも売上が欲しい。売上がなければ、本の仕入れもできない。さあ、いざウェブショップをリニューアルするぞ!となったとき、はたと、考えた。

便利さや送料の安さではどうやったってAmazonに勝つことはできない。欲しい本がピンポイントである人にとっては、わたしたちのお店のウェブショップで買うメリットはない。Amazonが嫌いなわけではない。むしろ、特に岐阜に来てからは、すぐに欲しいものを届けてくれるAmazonにとても助けられた。

よく古本を買う人にとっては、多数の古本屋が登録している「日本の古本屋」もある。こちらもいろんな古本を検索し、在庫のあるお店から直接購入することができるサービスだ。こちらもすごく楽しい。

わたしたちがわざわざ店舗を持っているのは、「本との偶然の出会いをつくりたい」と思ったことに起因する。それを、ウェブショップでできないだろうか、と考えていた。

「偶然の出会い」をつくる

他のお店の話をちょびっとすると、東京の古本屋さん「りんてん舎」さんが店内の棚の動画を撮りTwitterにあげ、見た人が欲しい本の問合せができるようにしたり、「キャッツミャウブックス」さんは店内をぐるりと見回す画像をアップし、そこから本を選べるようにしたように、店の棚の状況をそのままウェブショップに出すという選択肢もあった。

この形もとても楽しくて、手間も少ない。ただ、一冊ずつの装丁も見てほしいという気持ちもあり、庭文庫ではその形を取らないことにした。じゃあどんな風にしようか、と思った時に、天気や気分で本を選ぶことができるショップをつくろう、と思った。

参考にしたのは、「穏やかな音楽を集める」というコンセプトのCDショップ「雨と休日」さんのウェブショップだった。静かな感じがしながら、気分やジャケットの絵でCDを選ぶことができる。そのサイトを参考にしながら、手書きのかわいさのあるショップにしたいと思った。アイパッドで手書きの画像をつくり、カテゴリーを決め、本をWEBにアップしていった。

自分でもウェブショップをつくりながら、他の書店や古書店さんのウェブショップを見るようになって、店頭とは違うウェブショップの良いところも知った。

ウェブショップにはそれぞれの書店が「売りたい!」と思っている本が並んでいる。もちろんリアルな店舗でも同じことなんだけれど、たくさんの本を並べることができる店舗よりも、手間がかかるウェブはより各書店の特色が出るような感じがした。しかも、それが遠くにいてもわかる、という楽しさがあった。

一冊の本を売り続けるということ

そんなこんなでウェブショップのリニューアルはとりあえず完成した。これで良かったのか、正解はわからないけれど、庭文庫のウェブショップから本を買ってくれる人たちがいた。

色んな本が売れていくけれど、わたしたちのウェブショップでもっとも売れる本は、中島智『文化のなかの野生』だ。売れる理由は明白だ。わたしたちはこの本を、庭文庫だけで1000冊売ろう!と決めて、”1000冊売ろうキャンペーン”をしている。(その理由は長くなるので、こちらを見てほしい。)著者の中島さんもそれを知っていてくださっていて、そのことを都度都度SNSに載せてくれる。キャンペーンをはじめて、この一年半で140冊近くが店頭およびウェブショップで売れた。3750円という決して安い値段ではなく、出版年も20年前の2000年である本であることを考えると、すごい数字だなあとおもう。

ベストセラーと呼ばれる本がある。出版社も書店も、それらの本が売れるから、他の地味だけれど滋養があるような本を出版し、売ることができる。ベストセラーの本は長いこと本屋の店頭に置かれ続ける。しかし、出版社も書店も本の回転数を上げないといけないから、毎年新たに出版される約7万点の本のうち、売れない本はどんどん店頭から姿を消し、絶版になる。

もしも各書店が「うちは、これを売るぞ!」という本を一冊でも決めれば、たぶんその一冊は、その書店では売れるんじゃないだろうか、と思っている。それがマイナーな本であれ、すこし前に出版された本であれ、その書店が好きなお客さんは、熱意を買ってくれる人が相当数いるはずだから。そんな風に本を売っていけたら、各書店それぞれがおすすめしたい本は絶版にならずにすむかもしれない。各書店のカラーももっと出るかもしれない。

それは売り場の面積によって制限のある店頭では難しいかもしれないけれど、面積の制限のないウェブショップなら、どこの本屋でもそんな風に一冊の本を売り続けることができるんじゃないか、とかすかな希望みたいなものを、今握りしめている。