愛媛県西条市。
2019年版住みたい田舎ベストランキング四国第1位、若者世代が住みたい田舎部門全国第5位に輝いたまち。
そんな今イケてる西条市でコーヒーショップを営む渡邊仁志さん、友歌里さんにお話を伺った。
昨今の移住ブームのなか、お二人が大切にしているものとは・・・
#1 なかなか帰らなかった地元、すぐ決めた見知らぬ土地
西条市で生まれ育った仁志さん。
不況と重なった大学進学。なにをやろうか悩んだ結果、将来は地元に帰れる仕事をしようと大阪の大学で理学療法士を目指す道を選んだ。
理学療法士として就職した頃にダンスと出会い、それにのめり込んだ結果、5年の歳月を大阪で過ごした。
「高校のころは大学卒業から西条市での就職をしようと思っていたのですが、でもその時にはもうその意識は無くなっていて。その理由はせっかく始めたダンスをもっとこっちでやりたいな、と思いまして。ただ、いつかは帰ろうと思っていました」
そして、地元に帰るタイミングを考えた時、西条市でダンススタジオをやってみようと思い立つ。
ダンススタジオの設計図を書き始めた頃、ダンスをする子どもの親にコーヒーを出そうとひらめいた。
設計図を描いていくうちにどんどん大きくなっていったコーヒースペース。
いつの間にかカフェになってしまっていたと仁志さんが懐かしげに当時を振り返る。
そこからコーヒーを勉強するため大阪の店でバリスタとして1年働いた。
妻の友歌里さんと出会ったのはそんなときだった。
友里歌さんは京都生まれ。
小さい頃から音楽が好きで、京都に住みながら4年半続けていた音楽活動から少し離れゆっくり自分と向き合っていたとき、好きなコーヒーをきっかけに仁志さんに興味を持った。
コーヒーと音楽を融合させたライフスタイルを実現する場所として、西条市の可能性に惹かれた。
移住する決断を悩むことはなかった。
「家族のことは心配。でもどこに住んでもどんな仕事をしても、色々繋がっていることがあるはず」
と前向きだ。
「別に京都じゃなくてもいいし、西条市にいてもいつでも帰られるし。友達と離れてもそれぞれの場所でみんな生きていてそれぞれ頑張ってれいばまた会ったときに、再会を喜べるし」
#2 好きで戻って来たわけではなかった
ダンス仲間がそれぞれの道を歩み始めたころ、長男だから家を継がなくてはという思いもあり、ただ流れに身を任せて西条市に戻って来た。
すべてはタイミングだったと振り返る。
「『西条のことが好きで帰ってきたんですか。』と聞かれたら、それは『NO』なんです。 別に好きではない。そうではなくこれから可能性 を見出すという部分に関して言えば良いのかな、と。この店をつくってからそう感じています」
「内向的で外からの刺激をあまり受け入れない西条というまちは正直じぶんの波長とは合わない」というのが仁志さんの談。
西条に波長の合わない人たちがお店にあつまり、そこで生まれるコーヒーを介したコミュニケーション。いろんな西条市民と関わって来たつもり。でも、これまで出会ってこなかった人たちと出会うように。
そんな思いで始めたこのお店、やればやるほどのめり込んだ。
「ひとつのコンテンツの奥行と言いますか、ダンスの身体表現もそうですし、理学療法もコーヒーも全部深まれば深まるほど、底が知れなくて。だからそれが面白くて」
仁志さんの熱は凄まじい。
もちろん、結果が出ないこともあるが、「常に考えてやってくしかない、結果が出ないことを気にしすぎる」と情熱の中に冷静さもみせる。
#3 何よりも大切なのはバランス
友里歌さんが取り組んできたダンスの世界でも、1番心地のいいところで体と精神を保つことが重要だ。そのバランスがあって「自分らしさ」を表現できる。
「感覚ばっかりでも理論だけでもダメ。間に立てるように自分をコントロールするのが大事ですね」
法則を考えるのは大事。でも技術と理論、気持ちの問題、全部のバランスが大事だという。
それは理学療法でもダンスでもコーヒーでもそう。
仁志さんがこだわりをもって淹れるコーヒーもバランスが大事。
生産者とは対等に向き合い、どんなことでも意見をいいあう。
フルーティなコーヒーも酸味・苦味・甘味のバランスから織りなされるものだという。
西条の柔らかい水とコーヒーの相性もいい。
仁志さんと友歌里さんの関係も「24時間一緒だから喧嘩もある」としながらも、ちょっとずつ家庭とプライベートの両立がバランスよく成り立っているという。
「住人でなかったとしてもイケてる人は来るし、そういうまちの方がかっこいい。全ての人を受け入れるまちにしたいですね。そして、別に中核にならなくていいからその一員になりたい。」
仁志さんは謙虚さを忘れない。これもバランスだ。移住者のためにきちんと受け皿を作っていくことが大事で、じぶんのお店がその1つになれたらいいという。
「どうすれば西条というまちが良い街になるか」仁志さんの頭からこれが離れることはない。
「住んでいる人だけが居心地いい」まちは絶対すたれる。
引っ越してきた2割の人たち、このまちにほんの少し縁のある6割の人たち、すごく縁のある2割の人たち。
2-6-2のバランスでまちが構成されると、2割のひとたちはうまく回っていくと仁志さんは考える。
そのためには、それぞれを尊重しあえる空間が必要だ。「まずはこの店をそういう店にしたい」と意気込む。
#4 その輪は少しずつ広がっている。そしてこれからも
最初は1人も友達がいないところからのスタート。
それでも少しずつコミュニティが始まりつつある。
仁志さんだけでなく、友歌里さんもお店を通じて友達ができることが増えている。
そういうところにお店がある意味を感じる。
二階の音楽教室で音楽仲間が月に1回サークル活動をしたり、生徒さんが歌ったりする。もちろん友歌里さんもそこに入る。
田舎で自分に合うコミュニティを探すのは大変なこともあるかもしれないが、逆に自分が作ってそこにくる人たちとコミュニティを作るという逆転の発想だ。
「自分がいなくても任せられる人材を育てたい。学ぼうとしている子どもたちには自分のできること、スキル、持っているものすべてを出し惜しみせずすべて共有します」
自分の中で10年間は頑張ろうと決めた。どこまでいけるかわからないけど、まだ自分のやりたいこと2割しかできていない。
西条を離れてやってみたいこともある。
そのためにも、下の子たちと育てるのが役割だ。小学校でダンスの授業へ出向くなど、自ら動いて大切にしていることをちょっとずつシェアしている。
「10年20年たってそれがどうなるか」だから子どもを連れて来てくれた時にどうするかを考えながら過ごす日々。
「またタイミングで自分ができることをやりながらまちと関わっていきたい」と目を輝かせる。
最後に、居場所を探している人に向けて、仁志さんはこう語ってくれた。
「イケてることをすることだと思います。自分がイケてると思うことをすることが結果的によりよい居場所作りになるはずです。テイクばかりでなく、自分からギブをする、そういう精神をもって西条に来て欲しいという思いもあります」
移住に力を入れている西条市。自分がイケてると思うことにのめり込み、自分を表現して来た仁志さん。なにごとも前向きに捉える友歌里さん。
そんな2人の絶妙なバランスで、このお店はこれからも移住者の不安を解決する場所になっていく。
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