今年、NHK連続ドラマ「とと姉ちゃん」の題材にもなり、注目を集めている「暮しの手帖」。戦後すぐに立ち上げられ、四半世紀近くの間にわたって愛され続けてきた雑誌です。



昨年70seedsでは戦後24年の終戦記念日に発行された『戦争中の暮しの記録<保存版>』(前年に発行された『暮しの手帖96号』の再編集版)の、当時の編集部員の方を取材しましたが、この特別号については、ドラマの効果もあり今年はさらに多くの読者を獲得しているそうです。


一方、今年の再注目によるブーム以前から、毎年この特別号を個人的に応援し続けてきた、ある若い書店員がいました。それがジュンク堂書店池袋本店の小高聡美さんです。



なぜ戦争体験者でもない彼女が、この本に惚れ込んだのか、そしていまこの本に触れる価値とはなんなのか。同じく戦後生まれの、暮しの手帖社『戦争中の暮しの記録』営業担当者の庄司健太さんと、普段なかなか知ることのない「書店の裏側」にある書店員の情熱に迫りました。

岡山 史興
70Seeds編集長。「できごとのじぶんごと化」をミッションに、世の中のさまざまな「編集」に取り組んでいます。

声に出して読んでいると、涙が止まらなかった

‐今回、ジュンク堂書店池袋店では『戦争中の暮しの記録』を大きく取り扱うことにしたそうですが、具体的に何冊仕入れたんですか?

小高:100冊です。店頭で飾るPOPも自作して、一人でも多くの方の目に留まるように売り場をつくりました。

‐いち書店で100冊というのは、結構な冒険ですよね。例えば過去にはどんな本がそれくらいの仕入れ量だったんでしょう?

小高:普段、雑誌を担当しているので、書籍を100冊仕入れることはありません。

『戦争中の暮しの記録』の半分以下の値段に相当する、芥川賞掲載号の『文藝春秋』が初回注文150冊です。

旬な商品を勢いで売っていく雑誌と違い、地道に販売するものを100冊仕入れることに、正直すこし戸惑いました。

‐異例なことだとよくわかります。そもそもなんですが、なぜ今年、『戦争中の暮しの記録』のフェアをやることにしたんですか?

小高:暮しの手帖社の庄司さんから、改めて本書に光を当てたいという熱い想いを伺ったことが始まりです。

その想いに共感できましたし、NHK連続ドラマの影響もあり、『暮しの手帖』の新しい読者が獲得されていることを日々実感していたところでした。

今なら、100人の方に届けられるという直感もありました。実際、フェアを始めて9日間で、既に45冊も売れているんですよ。

‐45冊も!小高さんはこの本を、今年のフェア以前から個人的に周りに薦めていたと聞きました。嬉しさもひとしおではないかと思います。

小高:そうなんです。始めたのは5、6年前からでしょうか。機会があれば、様々なフェアの時などに販売してきました。

去年のフェア〈「戦争」を記憶する。〉では、一番売れましたよ。ひとりでも多くの方の手元に届いたと思うと、嬉しかったですね。

 

‐この本が発行されたタイミングって、小高さんが生まれるずっと前ですよね?最初はいつ頃出会ったんですか?

小高:記憶が曖昧ですが、約10年前くらいだったと思います。古本屋で偶然『戦争中の暮しの記録』を見つけて購入したのがきっかけですね。

‐そのときの印象は?

小高:ぺらぺらとめくるだけで、この1冊に込められた様々な思いが充分すぎるほど感じられました。

自分の知らない「戦争」に出会って、圧倒された感じです。

‐たくさんの「一般の方」による手記が集まっているからかもしれませんね。私が読んだときも、迫ってくるものがありました。ちなみに、この本の中で特に印象に残ったエピソードはありますか?

小高:どれというエピソードよりも、声に出して読んでいると涙がぽろぽろ流れてきて、それでも朗読し続けたのを覚えています

自分なりにしっかり向き合いたいと思ったのかもしれません。

 

 

 

 

まず、文章の強烈な力が目に入るように

 

‐小高さんは普段から自身の薦めたい本のコーナーをつくったりするんですか?

小高:作ることもあります。時代の流れを敏感に感じとって、読者が必要としているものと、自分にも売る必要があると感じたものに重なる部分があれば、すぐにでも棚を作ります。

今回も、(暮しの手帖社から)お話を受けてたった数日で棚ができました。

‐暮しの手帖社さんから相談があったんですね。暮しの手帖社ではこの本について、これまでもこういったフェアの企画をしてきたんですか?

庄司:そうですね、50年近くの間、みなさんが平和と向き合う機会の多い終戦の日前後や、戦後の周年といった節目にはフェアを開催してきました。

また広告収入がない関係で宣伝費用が限られますが、自社広告でも紹介し続けています。

‐庄司さんが考えるこの本の特徴ってどんなところにあるんでしょうか。

庄司:50年近くの間、絶やさずに版を重ねてきたといことですね。

ただ今回は、戦後70周年を迎えた昨年からの売上の伸びと、例年にない最近の機運の高まり、何より担当としてこの本をひとりでも多くの方に手にとってもらいたいという想いがあり、各書店さんに規模の大きなフェアのご提案をさせていただいたんです。

そして、このフェアを思いついた時、一番最初に頭に浮かんだ相談相手が小高さんでした。

‐今年はやはり特別な年になったんですね。そんな中、暮しの手帖社として、こういった形で書店さんが共感してくれていることについてはどう思っていますか?

庄司:嬉しく思うのと同時に、身が引き締まる思いですね。これからも、販売してくださる書店さんや手に取ってくださる読者さんの信頼を裏切らないような出版物を作り、販売していかなければと改めて思いました。

‐出版社も書店も一丸となって広げていきたいと思える本って、かなりレアなんじゃないかと思います。ちなみに、小高さんがコーナーをつくるうえで特に工夫したことはありますか?

小高:とにかく、本を手にとらなくとも、文章の強烈な力が目に入るように心がけました。

 

 

 

些細な幸せをバカみたいに大切にしたい、と思わせる1冊

‐小高さんが考える『戦争中の暮しの記録』が果たす意義って何だと思いますか?

小高:日常の、ほんとに些細な幸せをバカみたいに大切にしたいと再認識させてくれる本です。これからあとに続けて生まれてくる人達への宝物だと思っています。

‐小高さん自身「若い世代」ですが、もっと若い世代にも読んでもらいたいということですか?

小高:若い人、というと語弊があるかもしれませんね。私自身を含めて、戦争を知らないすべての方に読んでもらいたいです。

もちろん、何を感じるかは人それぞれですが、できれば声に出して読んで、身体で感じてもらいたいです。

‐現在の暮しの手帖編集部としては、どんな思いを持っているんでしょうか。

庄司:編集部としては、「暮し」を大切にすることが、家族や周りの人を幸せにする、と常々話していますね。

それこそが「平和」につながってゆくと。

「暮し」は、日々同じことの繰り返しではありますが、ささやかな工夫や、あたらしい暮らしまわりの提案をすることで、すこしでも豊かになっていただける。そんな記事づくりをしてゆきたい、と語っていました。

‐最後に、小高さんが今回の取り組みを通じて感じたこと、想いについて教えてください。

小高:お客さんと直接おはなしできること。本を売る、買うだけの関係を超えて、会話をできることがうれしいです。

たまに、うちで買った雑誌がきっかけで、雑誌を作ってしまったという方もいらっしゃいます。うちの売場で青春を過ごしたという人もいらっしゃいました。

私自身が雑誌に育てられた部分もあるので、雑誌に恩返しできていると思うと、ほんとうにうれしいですね。

 

 

 

 


ジュンク堂書店池袋店では9月15日(仮)まで、『戦争中の暮しの記録』フェアを展開中。

その他、銀座・教文館、千駄木・往来堂でもフェア開催中です。

 

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