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【連載⑧】戦争の記憶図書館-荒ぶる、広島のやんちゃ男

広島の「あの日」からの日常を、有名な戦争写真のモデルになったおばあさんの語りとともに描く連載も第8回。

 

やんちゃな祖父のエピソードはまだまだ続き、ついにあの「男の悩み」に・・・!?

 

※前回はこちら→【第7回】主人とのそろばんバトル

 

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【登場人物】

私:しの

河内:河内光子さん

恵:しのの祖母

坂本:ピースボランティアさん

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生えた!?夫の髪の毛

 

河内さんはおもむろに白髪と黒が半分つづ混じり合って灰色になっている自分の髪をひと撫でして言いました。

 

河内:主治医が髪染めてない?って言うんです。よくないんですってね。

 

恵:私もね、今の所どうもないから染めとるけど もう辞めようか、もう辞めようかと思っとるんですよ。主人はこんなハゲとるのに釣り合いが取れんじゃない。

 

私の祖母は自分の主人を目の前にしてもいつもの調子で、人の良い祖父はそれもはっはっはと笑います。

 

河内:そう?私の主人の方がよっぽハゲとりましたよ。私いつもシャンプーを5倍に薄めるんです。

 

河内さんも河内さんで祖父を前にさらりと主人のハゲ具合と比較するという荒技。私は昭和の女の強さに内心慄いていました。

 

河内:「お前、わしのシャンプーどこやったんや」言うけえ、

「風呂洗うことにしたけえお父さん、これ一本やってごらん」

って言うたんですよ。

 

ほしたらね、一ヶ月したら毛が生えてきたんです。

 

一同:へえ〜〜!

 

河内:ところどころ生えてきたんですよ。

「おい、どこ行くんや」

言うけえ、

「今日は美容院行くんよ、カットしてもらいに」

言うたら、

「連れてっちゃる」

言うんですよ、生えてきたもんじゃけえ。

 

調子の良い夫の顔を思い出したのか河内さんはひときわ嬉しそうに続けました。

 

河内:「おい!生えたぞ!来てみい!」

言うけえ、行ってみたらほんまにところどころ生えとるんですよ。

 

…よう光っとりました。

 

祖父:ということは生える希望があるいうことなんですね?

 

目を輝かせながた問いかける祖父。でもそれに答える人は誰もいませんでした。

 

祖父:どのくらいで生えてきたんですか。

 

それも気にせず祖父は質問を続けます。

 

河内:三ヶ月くらいそれで洗ったんですよ。そしたら生えてきたんです。

「おい、何ぞおかしいで、手が当たるで。なんぞ付いとるけえ見てくれえや」

いうけえ見てみたんですよ、

 

「ありゃっ こりゃ毛よ!」

 

kouchi08

 

祖母:「こりゃ毛よ!」がええじゃない

 

その一言がよっぽど気に入ったのか、祖母はそれを繰り返して笑い、その祖母につられてまた一同で笑いました。

 

河内:「わしゃ皮膚科行って見せる!」

言うて行ったら、

「えっこりゃニュースですよ!生えましたよ!」

言うたあの先生が大好きになったって。

 

祖父:じゃああのテレビでやっとるようなやつはほんまに生えるんですね。

 

祖母は可笑しそうに言う。

 

河内:いや、私が使っとったシャンプーで生えてきましたからね。

それにしても感激しましてね。

「おい、街出ようや!」

言うんです。

 

出るのはええんです。何で出るん?って。そしたら

「電車で出る、わしゃ飲むけえ。」

言うて電車乗って座ったんです。

「わしゃ前から考えとったんじゃ。ヨシノヤいうのは牛丼屋ようのう。」

ほうよ、て言うたら

「お前が前から欲しい欲しい言いよったヨシノヤの靴いうのはお前、欲しいんか」

って言うもんじゃけぇ、履いてみたいけど、柄じゃないねぇって。ほいだら、

「今日は買うたる」

って。毛が生えたけえ。

 

主人の口調を河内さんは再現しては笑います。

 

祖母:高いんでしょ?

 

河内:数万するでしょう、そんなん買うたことないんです。

 

そしたら主人が

「ほいじゃがヨシノヤも忙しいのう。」

って言うもんやから、なんでね、って聞いたら

 

「牛丼屋、靴屋」

 

って(笑)。

 

これには一同が爆笑。

 

河内:経営が違うんよ!って(笑)。そしたら、

「ほうか?」

いうて。

 

隣に座った上品な奥さんがくっくっくっくっ笑ってね。

すみません。言うたら

「こんな面白い話、初めて聞きました。」

言うてんよ。

その時初めてヨシノヤの靴を買うてもらいました。

 

恵:わたしゃまだ買うてもらわん。毛が生えたら買うてもらえるかね。

 

祖父:はっはっは。

 

祖父は笑ってごまかしていました。

 

私:じいちゃんどっから毛が生えるかね。

 

私も面白半分に祖父の頭を眺めます。

 

祖父:どうかな。今んとどこまでシャンプーでどこまで洗顔料使ったらええかわからんじゃろ。

そりゃね、つるっとした頭の上から毛が生えてくるのよ。

 

河内:私のはよう光ってましたよ。

 

恵:私のもよう光ってますよ。

 

河内さんと祖母は自分の旦那のハゲ比べをしては笑っていました。

 

 

広島のやんちゃ男

 

ひとしきり笑った後、また河内さんはご主人とのエピソードを思い出したようでした。

 

河内:うちのはやんちゃ坊主でね。いつかしらも名古屋から帰って

「今日やったぞ!」

「何をしたん」

「若いもんを表に引きずり出してやった」

「ええ!?警察きた?」

「いや、来る前にみんなが止めた」」

声を低くして言いました。

 

「取引先で「広島の業者にこの生地はやられん」

いわれてね。車のカバーじゃったんですけど。

「広島じゃこうようなん売っても売れやせん」

「広島ナメるな?!表へ出え!!」

「何しに表に出んといけんのんね」

「出とうないんならわしが引きずり出しちゃる!!」

 

いうてひきずり出して。相手は40代ですと。こっちは60代なのに、よう生きて帰れたねえ。

 

それにしてもなんでそんなにやんちゃなんね。って聞いたら

「我慢できんのじゃ」

いうんですよ。ほいでね、札付きになったん。“広島のやんちゃ男”って。

 

恵:男気のある人じゃったんじゃね」

 

河内:困っとる人は放って置かれん性質。やんちゃ坊主でした…」

 

祖母の言葉に一気にいろんなことを思い出したようで、河内さんはそう言ってまたお茶を一口すすりました。

 

 

→【第9回】帰らなかった父の弟子 に続く。